第119話 戦闘系能力者は出入り禁止?
翌日。
沖縄旅行を終えた俺らは、和歌山県でパンダツアーを堪能してから、夜に東京へ帰ってきた。
みんな、すぐ家に帰らなかった。
いつものように、うちのリビングでお土産を広げながらくつろいでいる。
麻弥は、シーサーのぬいぐるみがお気に入りのようだ。
ずっと膝に抱いている。
その麻弥を、真理愛がずっと膝に抱いている。
そんな光景はとても可愛いのだけれど、俺は難しい顔をしてしまう。
「どうしたのハニー君?」
沖縄土産のサーターアンダギーを食べながら、美稲が顔を覗き込んできた。
流石に、美稲は察しがいい。
「ちょっと昨日の貴美たちのことが気になってさ」
「あー、確かにあの人たちは強烈だったよねぇ」
美稲は困り顔でほおをかいた。
それはみんなにも伝染していく。
「う~ん、あの人はドリルが惜しいけどシサエと波長が合わないっすね」
「思い込みの激しい方だと推測できます」
真理愛に続いて、茉美も苦い声を漏らした。
「ていうかマジであいつらと同じクラスになったら毎日からまれるわよ」
「ボクのサプライズを潰したしあまり好きじゃないな」
みんな思い思いの感想を漏らしていく。
でも、俺が言いたいのはそこじゃない。
「それもそうだけど、なぁ、首里城みたいに能力者が入場制限されている場所って、どれぐらいあるんだ?」
「調べてみましょう」
真理愛が虚空に指先を走らせると、リビングの壁いっぱいに巨大なMRスクリーンが展開された。
左半分には日本地図が、右半分には東京の地図が表示され、無数の赤い矢印が光った。
予想以上の数に、ぎょっとしてしまった。
一方で、真理愛は表情筋を一ミリも動かさず、口元だけを無感動に動かした。
「ざっと念写しただけでも、1000か所以上。重要文化財のある場所は9割以上が立ち入り禁止ですね。他、いくつかのイベント会場でも、戦闘系能力者の方は入場を断る可能性があると約款に明記されているようです」
流石は真理愛。
淡々と説明する様子は、まるで一流の秘書のようだった。
「俺は去年まで一般人だからこの手の話には疎いんだけど、前からこうなのか?」
「いえ。少なくとも私の知る限り、以前は超能力を理由に入場拒否される例は稀だったと認識しています。どうやら、この三か月の間に増えたようです」
「異能学園が創設されてからか」
「因果関係は否定できないよね」
やや緊迫した、真面目な顔で美稲は頷いた。
「私、金属資源を作っている時に時間の余裕があるから、割とニュースには目を通しているんだけど、先月から話題にはなっていたんだよね。刺青客が銭湯やプールへの入場禁止なのと同じ、戦闘系能力者も他のお客様が怯えるからって」
「横暴っす、キリハちゃんはこんなにかわいいっす!」
詩冴が桐葉の頭を抱きしめると、舞恋が小さく唸った。
「う~ん、でもそんなの今更だよね? なんで急に?」
「……ボクらは目立ち過ぎたんだよ」
今まで沈黙を保っていた桐葉が、重たい口を開いた。
この場では唯一の戦闘系能力者である桐葉の冷淡な言葉に、みんなは注目した。
「……今までボクら超能力者は、一種のビックリ人間みたいなものだった。実際、昭和や平成のオカルトブームの時だって、霊能力者や超能力者が危険視されることはなかった。でも、今は違う」
息を吐いてから、桐葉はどこか諦め口調で語り始めた。
「日本が経済破綻して終末ムード一色だったのに超能力で食料問題、資源問題、エネルギー問題を解決した。それがきっかけで東南アジアはPAUを発足。さらに世界最大の国家OUの日本への介入と対立。世間は気づいたんだ。超能力が、世界のパワーバランスすら変えるチートであることに。そのせいで、能力者廃絶主義者たちが勢いづいているってわけさ」
能力者廃絶主義者。
超能力者を危険視する思想を持つ彼らは、以前から一定数存在はしていた。
けれど、世間からはあまり相手にされず、一部の陰謀論オタクやオカルトマニアたちの界隈で騒いでいる印象があった。
いわゆるノイジーマイノリティで、ネット上では派手に活動し多くの動画を投稿しているが、現実社会で廃絶主義を自称する人は少ない。
だけど、俺らの活躍で世間の目は変わった。
超能力はチートで能力者は漫画のヒーローにもヴィランにもなりうる超常の存在だと認識したことで、残酷にも危険視する人々も増えてしまったのだろう。
漠然とした不安が、胸にのしかかった。
「まずいな……」
この流れは危険だ。
時流という言葉があるように、時代は流れだ。
世論、大衆は時代の流れに流される。
歴史上、多くの国が時代の熱に浮かされ戦争に突入したり、景気不安から集団ヒステリーをおこしたように、人々は何の根拠もなく、自然発生した見えない力に突き動かされて事変を起こす。
平時に聞けば作り話にしか聞こえないような頭の悪い事件が、だけど人類史には数えきれないぐらいある。
「このままだと桐葉を幸せにできないじゃないか」
『え?』
八人の視線が、一斉に俺に集まった。
さっきまで冷淡な表情だった桐葉でさえ、僅かに頬を染めて俺に注目していた。
――やば、声に出ていた。
「いや、今のはちが、えっと……」
誤魔化すように言い訳を考えて、だけど俺はさっきまでの自虐的で無情な雰囲気の桐葉を思い出して、意を決した。
「そうだよ! このまま戦闘系能力者が差別される世の中になったら、桐葉を幸せにできないじゃないか! 俺は将来桐葉と結婚して子供を作るんだよ! 子供も戦闘系能力だったら俺と桐葉の子供もいじめられるんだぞ。そんなの駄目だろ!」
これで満足かチクショウめとばかりに、半ばヤケクソで言い切った。
すると桐葉はわずかに目元を緩めて、苦笑を漏らした。
「ハニー正直すぎ。うん、でもだからたくさん好きだよ」
なごやかな表情で、そっと身を寄せてくる桐葉。
それだけで、ちょっとした達成感を味わえた。
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本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
フォロワー11505人 300万0436PV ♥43296 ★5696
達成です。重ねてありがとうございます。
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