第117話 ボルケーノ貴美美方(たかみみかた)

 午後三時。

 首里城にテレポートした俺は、開口一番、茉美にお礼を言った。


「いやぁ、茉美がいて助かったよ。回復ありがとうな」

「べ、別にいいわよこれぐらいで。それより、あのさ、ショックでさっきの記憶がなくなっていたり、とかは?」

「ごめん、鮮明に覚えている」

「ここは嘘でも忘れたって言うところでしょ!」


 両手でグーを作りながら茉美は吼えた。


「いやそんな漫画じゃないんだから」

「ぐぁぁぁぁ……やっぱりやりすぎたぁ……胸とお尻見られて、パフパフまで」


 茉美が頭を抱えてうずくまる向こう側で、舞恋は真理愛の胸に顔をうずめて震えていた。


「見られちゃった……ぜんぶ……上も下も前も後ろも……バレちゃった……本当のサイズも、アレも、コレも……なのも」

「あはは……死屍累々だね……」


 美稲が苦笑いを浮かべると、桐葉が俺の肩を叩いてきた。


「ハニー、ちゃんとフォローするんだよ」

「あ、ああ」

「ハニーちゃん、責任、ちゃんと取るんすよ」

「おいっ」


 舞恋は真理愛に、茉美は麻弥に手を引いてもらいながら気を取り直し、俺らは他の観光客に混じって歩き始めた。


 石造りの城壁を抜けて、緑に囲まれた庭を進むと、有名な真っ赤な建物の前に出た。


「おー、赤くてかっこいいな」


 首里城は、日本風とも中華風とも言える不思議なデザインで、真っ赤な配色がビビッとでイカしていた。


 黒い大阪城や白い江戸城、黒赤金の安土城とは、また違った魅力があった。


「首里城って何年の建物だっけ?」

「2024年だよ」

「早!? え!? 俺が生まれた年!? 歴史的建造物じゃないのか!?」


 矢継ぎ早に疑問を投げつける俺に、桐葉はちょっと嬉しそうな表情で説明してくれた。


「最初に建築されたのは14世紀だけど、1453年、1660年、1709年、1945年、2019年で合計五回も燃えているからね。この首里城は六代目だよ」

「レプリカか!」

「そんなこと言ったら金閣寺も一度全焼しているし、歴史的建造物なんてそんなものだよ。いーいハニー、名所は雰囲気を楽しむものなんだよ。海の家のヤキソバ的な」

「納得したくない俺がいます」


 腹にいちもつ抱えたまま、それでも俺は桐葉たちと一緒に首里城の中を目指した。

 が、入り口に妙な物理看板とMRボードが表示されていた。



 危険物の持ち込み禁止 及び 戦闘系能力者の方は入場禁止



「なにこれ、ボクは入れないってこと?」


 平坦な声で桐葉が俺に尋ねると、近くのスタッフさんが声をかけてきた。


「申し訳ありません。文化財保護の観点から危険物の持ち込みと戦闘系能力者の方は入場をお断りさせてもらっているんです」

「ふーん…………」


 桐葉は、特に感情の無い声を返した。


 今までのように、クールで冷淡な表情を表に出さないものの、彼女の心中を考えると、冷静ではいられなかった。


 坂東みたいな危険人物のことを考えれば、スタッフの言う事はわかる。


 戦闘系能力者は、常に安全装置の外れた銃火器を携行しているようなものだ。


 だからと言って、色眼鏡をかけた見方は許せない。


 なので俺は、少しワルになってみた。


「彼女は政府が俺に付けた、政府公認のボディーガードなんですが駄目ですか?」


 ちょっと低めの声色で、あえて堂々とした語調で告げてみた。


 すると、スタッフさんは俺の顔、それから美稲、真理愛、詩冴の順に視線を動かして、ハッとした。


「ここ、これは気づかずすみませんでした。四天王様ご一行でしたか。事前に言って下されば関係者パスを発行しましたのに。どうぞどうぞ」


 途端に腰を低くしてへつらってきた。


 その身代わりの早さに居心地の悪さを感じながらも、俺は桐葉の手を取った。


「行こうぜ桐葉。俺から離れちゃ駄目だぞ」

「ハニー……うん、ありがと」


 俺が声をかけると、桐葉の無表情がゆるんで、穏やかな笑みを見せてくれた。


 やっぱり、桐葉には笑顔が似合う。


 この子の笑顔を守り続けたいと、バカップルみたいなことを考えてしまった。


 そんな暖かい気持ちで一歩を踏み出すと、素っ頓狂な声が雰囲気をブチ壊してきた。




「なぁんですって!? この世界最強の超能力者! 万物を灰にする灼熱紅蓮のマグマ使い! ボルケーノ貴美美方(たかみみかた)様が入れないとはどういうことですの!?」

「だからだよ姉さん」

「貴方! 弟のクセに姉の味方をしないとは何事ですの!?」

「弟と言っても双子だろ?」

「30分でも姉は姉。屁理屈をゴネると灰にしますわよ!」

「だから入れないんだよ」


 真っ赤なキャミソール姿の黒髪ドリルヘアーの女子が活火山のように喚き散らす横で、眠そうな顔をしたタレ目の男子が肩を落としている。


 ――能力者ってことは、たぶんうちの学校の生徒だよな?


「確かにワタクシの力なら首里城なんて1分もかからず灰ですわよ。さらに、うちの弟も二分とかからず藻屑にできます。しかし、だからと言って入場禁止なんて失礼千万! 首里城を燃やされたくなければ入れなさい!」


「だから姉さんは友達いないんだよ」

「そういう貴方だっていないでしょう!」

「いや、おれはいるよ」

「嘘をおっしゃい! 24時間ワタクシと一緒に居るのにいつ交流をしているというの!?」

「朝晩姉さんが寝ている間かな」


 ――だから眠そうなのか?


「だったらワタクシのことも紹介なさい!」

「嫌だよ。こんな姉さんがいるなんてバレたら絶縁されちゃうじゃないか」

「ムキィー! 貴方、ワタクシのことをバカにしていますの!?」

「バカになんかしていないよ。見下しているだけだよ」

「ファァアアアアアアアアアアアアアック!」




119話 戦闘系能力者は出入り禁止?

120話 詩冴にはジャーマンスープレックス

121話 不当な規制

122話 0と1の差

123話 オーディション

124話 貴美美方ふたたび

125話 自分中心他動説

126話 異能バトルスポーツを作りたい

です。

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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー11451人 296万6678PV ♥42515 ★5677

 達成です。重ねてありがとうございます。

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