第106話 早百合VSパワードスーツ

 ――OUで開発された軍事用強化外骨格。脳波で動かすブレインコントロールシステムで素人でも体の延長として操作可能。武装はガトリング砲と高周波ブレードか。やっぱりOUかよ。


 それと、俺のテレポートが効かなかった理由がわかった。


「コピー能力で作られたニセモノ!? だからか!」


 【テレポート】や【リビルディング】などの干渉系は、超能力には干渉できない。


 だから、坂東の時も、全身を超能力の氷で作った鎧で覆われたら効かなかった。


 伊集院も、全身を超能力で作り出したスーツを着ているため、テレポートが効かないのだろう。


「つまり、私の【リビルディング】で分解することもできないってことね」


 美稲が口惜しそうに歯噛みすると、桐葉が声を昂らせた。


「ようするに、ボクの出番ってわけだね」


 桐葉の十指の先からガラスのように透明な刃が形成されると、その先から透明な毒が滴り落ちた。


 同時に、気温が一気に3度上がったような熱を、彼女から感じた。


 針霧桐葉という存在から、戦車に比肩しうるような圧倒的頼もしさを、肌で感じた。

「役に立てなくて悪いな」

「何言っているのハニー? これがボクの仕事でしょ? それに、ボクは謝罪の言葉なんて聞きたくないな」


 肩越しにイケメンスマイルを浮かべられると、俺は力強く返した。


「感謝するぜ桐葉、ありがとうな!」

「どう! いたしましてぇ!」


 弾丸のように飛び出した桐葉は、テレポート並みの移動速度で敵機へ到達し、神速の勢いをそのままに五指を鋼の装甲に叩き込んだ。


 映画の交通事故シーンのようなクラッシュ音と共に、敵機は放物線を描くことなく、水平にカッ飛んで体育館の壁に激突した。


 これが、ハチが人間大になった時の筋力なのか。


 哺乳類の馬力を遥かに超えていた。


 そして、桐葉に触発されたのか、他の戦闘系能力者たちが、次々敵機へ攻撃を仕掛けた。


 炎が、稲妻が、刃が、瓦礫が、怒涛の勢いで伊集院たちに殺到した。


 まるでバトル漫画のワンシーンのような迫力あるシーンに、俺は一瞬期待した。


 けれど、しょせん現実はフィクションを超えられなかった。


「弱い、弱いなぁ!」


 軽くハシャぎながら、伊集院は超能力の弾幕を一顧だにせず、弾丸タックルをぶちかました。


 腰を抜かした生徒たちと接触する直前、美稲の能力で床が跳ね上がり、伊集院は否応なく打ち上げられて体育館の壁にめり込んだ。


 総務省に集められた初日に、早百合局長が言った通りだ。


 漫画の主人公たちと違って、現実の戦闘系超能力者の出力は、兵器を破壊できるようなレベルではない。


「戦闘系能力者も戦うな! 警察が来るまでの時間は私が稼ぐ! 避難しろ!」


 言うや否や、早百合局長は壇上から飛び降りると、三機のうちの一機と対峙した。


 俺は檄を飛ばした。


「詩冴は真理愛、舞恋、麻弥、茉美を連れて避難頼むぞ!」

「わかったっす!」


 俺が五人だけを地下にテレポートさせると、早百合局長が叫んだ。


「奥井育雄!」

「いやとは言わせませんよ、それに早百合局長も逃げて下さい!」


 気遣ったわけじゃない。

 戦えない人がいると、盾や人質にされて、かえって迷惑だ。


 この場で役に立つのは、俺、桐葉、美稲の三人だけだろう。


 そう思っての言葉だったのだが、俺が早百合局長も地下にテレポートさせようとした矢先。


 敵機がガトリング砲を猛らせると、早百合局長はドロリと溶けるように姿勢を低くするや否や、電光石火の早業で敵機の懐に潜り込んだ。


 間髪を入れず敵機が殴り掛かると、早百合局長は胴体を最小限の動きで捻り、拳を避けてから、伸び切った鉄腕をつかみ、一本背負いの要領で投げた。


 3メートル500キロの巨体の爪先が弧を描いてから、体育館の床に叩きつけられた。

 早百合局長は、好戦的な笑みを俺に返してきた。


「邪魔か?」

「いえ……」


 きっと俺は、苦虫を噛み潰したような顔をしていることだろう。


 ――ていうか本当に人間か?


「フッ、戦車と違って強化外骨格は戦いやすくて良いな。いいか! 倒す必要はない! あくまでも警察が来るまでの時間稼ぎに徹しろ!」


 指示を出しながら、早百合局長は敵機の攻撃を紙一重のところで避け、いなし、受け流していく。


 超人的に見える早百合局長も、あくまで生身。


 パワードスーツにダメージを与える方法はない。


 そこが、桐葉と早百合局長の大きな違いだ。


「もう一機は私に任せて!」


 美稲が、最初に桐葉が叩き飛ばした機体を抑え込んでいた。


 めくれ上がった床が機体を飲み込み、人工筋肉の出力と拮抗しているようだった。


「おいおい、あのゴミ上司、本当に人間か?」


 背中のジェット噴射で天井近くをホバリングしながら、伊集院は得意げに俺らを見下ろしてきた。


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 本作、【スクール下克上 ボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました】を読んでくれてありがとうございます。

 みなさんのおかげで

 フォロワー11078人 276万3582PV ♥39405 ★5521

 達成です。重ねてありがとうございます。

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