第25話 いい人は都合のいい人
放課後になると、俺ら三人は下駄箱で上靴から外靴に履き替えて、正門から外に出た。
いつもなら、ここでテレポートを使うのだが、俺はどうしても、美稲に確認しておきたいことがあった。
「じゃ、テレポートよろしくね」
「なぁ、美稲」
「ん? なーに、ハニー君?」
俺の手を握ってから、美稲は首を傾げた。
俺は、できるだけ平坦な声で尋ねた。
「昼休みの時、美稲はどうして俺をかばってくれたんだ?」
「…………うーん」
しばし無言になって悩んでから、美稲は優しい表情を見せてくれた。
「少し、歩こうよ」
俺の返事を待たず、美稲は歩き出し、手を引いた。
桐葉は何も言わず、ついてくる。
いつもの無邪気な顔ではない、かといって、時折見せる、冷酷な表情でもない。
証明写真を撮る時のような無表情で、成り行きを見守るように無言だった。
しばらく歩いていくと、下校する生徒たちの流れは、駅の入り口に吸い込まれていった。
だから、駅の前を通り過ぎると、生徒の数はぐっと減る。
人目の少ない住宅街で、美稲は俺の顔を見やった。
「さて、何か悩みがあるなら美稲さんに話してごらん」
同い年なのに、まるで年上のお姉さんのように包容力のある口調で、美稲は聞く姿勢に入った。
その、少しくだけた態度が、俺の口を軽くする。
「前、桐葉にも話したんだけど、俺、いわゆるボッチだったんだよ。小学校でも中学校でもみんなに馴染めなくて。だから昼休みの時みたいにかばわれたことも無くて、だから、なんでかなって」
「それはね、私がハニー君と友達になりたいからだよ」
「なんでだ? 俺なんて何も取り得ないぞ? それにイケメンでもないしトークが上手いわけでもないし、一緒にいて楽しくないだろ?」
「そんなことないよ」
美稲は、穏やかな声音で言った。
「ハニー君は、凄く【いい人】だから。ハニー君って、謙虚で真面目でしょ。それって魅力的だと思うよ」
言われたことのない単語を並べ立ててから、美稲は続ける。
「サイコメトリー能力者の舞恋さんを信じて簡単に手を握ったよね。周りに優しくしてもらえない人が、他人を信じるって、凄いことだよ」
――美稲は、俺がボッチなのを知っていたのか? いや、坂東と俺を見れば、俺の中学時代なんて、だいたい想像がつくだろう。
「それに、桐葉さんだって。ハニー君に魅力が無いと好きにならないよ」
美稲とは逆隣を歩く桐葉を意識しながら、俺は重く口を開いた。
「でも俺、今まで好かれたことないぞ」
「それはきっと、みんなが【いい人】じゃなくて【都合のいい人】と付き合いたかったからじゃないかな?」
意外にキツイ言葉を吐くんだな、と思う間も、美稲は優しく教え諭すように、滔々と話を続けた。
「舞恋さんや桐葉さん、詩冴さんや真理愛さん、それに麻弥ちゃんの気持ち、私はわかるよ。私もそうだから。昨日、ハニー君言ったよね。自分はただのタクシーだって、あんなこと、普通なら言えないよ」
そして、彼女の声にはどこか寂し気な響きが含まれる。
「普通の人は他人の手柄を横取りする、自分との共同だったことにする、あるいは他人の手柄にケチをつける。でもハニー君は自分の手柄にすら気づかない。そんなハニー君のことが、私は好きだな」
――ああ、そうか。
今の言葉で理解した。きっと彼女も昔、色々とあったのだろう。
いつも穏やかに見えて、きっとその目で、悪質な人間たちを見続けてきたに違いない。
そう思うと、急に親近感が湧いてきて、調子に乗ったことを言ってしまう。
「なら、俺も美稲はいい人だと思う。みんなが卑屈で地味だと言う俺を、お前は謙虚で真面目と言ってくれる。そんなお前は、凄くいい人なんだと思う」
「惚れちゃった?」
すぐそばの桐葉を意識して、心臓が凍りそうだった。
「ちょっ、そういうことは冗談でも、なっ」
「はは、嘘嘘。ハニー君は、ちゃんと桐葉さんのこと、考えないとだめだぞ。じゃ、そろそろテレポートしようか」
「お、おう」
美稲が俺の右手を握ると、逆側から、すぐに桐葉が左手を握ってきた。
そのまま俺と肩を触れ合わせて、亜麻色の髪を揺らしながら、桐葉の蜂蜜色の瞳が俺の顔を覗き込んできた。
「好きだよハニー」
まるで、何かに感謝するような響きの意味を考えながら、俺は総務省にテレポートをした。
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ここでちょっと謝罪です。
皆さまのコメントを見ると、坂東の能力を誤解させてしまっているように感じるので、能力解説を。
坂東の能力、【アイスキネシス】は【氷】を作る能力であり、冷却ではありません。
炎は熱エネルギーの塊なので、反対の冷気は熱エネルギーを消滅させるアンチエネルギーになると思います。
が、坂東の氷は水、H2Oが固まったモノであり、冷気とは別物です。
ヒロアカのショート君やワンピースのヒエヒエの実など、多くの漫画、アニメ、ゲームでは氷属性=冷気 炎属性の反対のものとして扱われているので、誤解をさせてしまったものと思います。
既存の作品の能力でたとえると、ワンピースのヒエヒエの実ではなくユキユキの実です。
作った氷に埋もれさせることで、結果的に冷やすことはできても、対象の熱エネルギーを直接奪うとか、そういう高等テクはできません。
また、氷を作るのも自分の手を中心に、近場に限られます。
念じただけで離れた相手を氷漬けにすることはできません。
出力だけはそれなりに高いので、
・地面一帯を凍らせて相手の動きを鈍らせる。
・巨大な氷の砲弾を飛ばす。
・地面から氷の柱を出して相手を突き刺す。
などの攻撃で、中学時代は他の戦闘系能力者相手に勝ってきました。
けれど、どれもそれなりに時間がかかるので子供の喧嘩ならともかく、犯罪者が地面が凍るまで悠長に待ってくれるとは限りませんし、その前に銃で一発撃たれれば終わりです。
また、桐葉のように空を飛べる相手、肉体強度が氷より高い相手には通じません。
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本作を読んでくれてありがとうございます。
みなさんのおかげで
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達成です。重ねてありがとうございます。
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