第23話 一軍ざまぁの続き
「おい、最近チョーシこいている奥井ってのはお前か?」
ぞろぞろと教室に入ってきたのは、細身で美形の男女7人組だった。
制服のネクタイやリボンの色から、同じ一年生であることがわかる。
みんな、読者モデルをやっていてもおかしくないルックスだ。
一年生の美形ランキング上位を集めれば、こんなグループができるかもしれない。
けれど、その表情は一様にしかめられ、俺のことを威嚇していた。
俺も、睨まないまでも、負けじと語気を強めた。
「調子にはのっていないけど奥井は俺だ」
調子に乗るどころか、みんなとの差を感じて、劣等感を持っているぐらいだと言ってやりたい。
「調子にのってんだろ」
「いつも内峰さん独占して何様?」
「あのね、内峰さんはあんたのものじゃないんだから」
―—それを言うなら、お前らのものでもないだろう。
「あのねみんな、これは別に――」
「まぁまぁ内峰さんは座ってて」
「そうそう、話はオレらがつけてあげるからさ」
二人の生徒が媚びを売るような顔で美稲の言葉を遮った。
その間に、背が高くて目力のある生徒が俺と距離を詰め、机に座る俺をぐるりと取り囲み、裁判官のように見下ろしてきた。
これは、悪質な人間がよく使う手口だ。
一人の人間を、徒党を組んで責め立てる。
それも、ターゲットを高い目線から取り囲むようにだ。
そうすることで精神的優位を取り、相手を委縮させる効果がある。
それが一番効果的だと、悪質な人間は本能で知っているのだろう。
「オレさ、能力者って嫌いなんだよ。人と違うことができるからって特別な人間気取りで、自分は神に選ばれた特別な人間だとでも思ってんのか?」
「それかバトル漫画の主人公気取りな。キモいんだよ。いつまで漫画に影響されているんだよお前何歳だよ。高校生にもなってこの世が自分を主人公にした漫画だとでも思ってんのかよ」
美稲も能力者なんだけど、こいつら本気で馬鹿なんじゃないか? いや馬鹿か。
悪質な人間は、【相手を攻撃する】という欲望が前に出過ぎて、言葉の整合性を考えない傾向がある。
論理が破綻していようが矛盾していようが、とにかく相手を攻撃できればなんでもいいので、支離滅裂なことを言っても気にしないのだ。
「お前ら能力者って、自分らを進化した超人だと思っているみたいだけど違うからな。超能力なんて人よりちょっと足が速いとか歌が上手いとかと同じただの個性だからな」
「野球部がバッティングができる自分は進化した新人類とか言うのと変わんねぇよ、寒いんだよ。なのにガキの頃からいっつも偉そうにオレらを見下して何様だ?」
――あー、そういうことか。
ようするに、こいつらは羨ましいのだ。
勉強もスポーツも、努力をすれば鍛えられる。
だけど、超能力だけは手に入らない。
だから、超能力者が羨ましくて仕方ないのだ。
それで、超能力と超能力者を見下して悪者に仕立て上げて見下すことで、プライドを保とうとしているのだろう。
美稲につきまとうのは、歪んだ征服欲の現われかもしれない。
いつか美稲と付き合い、そのカラダを好きにできるチャンスがあれば、【あの超能力者を屈服させてやった】と、支配欲とプライドを満たすのだ。
「おいなんとか言えよ」
「それともびびって声も出ないか?」
馬鹿の相手をするのは面倒だ。
理屈が通じず、あらゆる曲解拡大解釈を駆使して声高に『とにかく自分が正しくお前が悪い。だから謝罪しろ』の一点張りだからだ。
けれど、これ以上増長させて俺に手を出せば、桐葉が黙っていない。
既に桐葉は、両目に酷薄な殺意を漲らせ、五指の先端に淡い光が明滅している。
その前に、こいつらをどこかへテレポートさせようか。
でも、暴力を振るわれていないのにそんなことをすれば、逆に超能力で暴力を振るわれたと声高に叫び、被害者面をするかもしれない。
――あぁ、本当に馬鹿の相手をするのは面倒だ。だからこいつらとは関わり合いたくないし俺はソロ充だったんだよ。
親や教師は、みんなと仲良くするよう俺に強要してきたけれど、こいつらと仲良くするということがどういうことかわからない大人たちには、怒りで全身の血が泡立ったのを覚えている。
――なんて、昔話を思い出している場合じゃないよな。とりあえず声を大きめに正論を並べるか。
「ちょっとみんな、私の友達に酷いことを言わないでよ」
俺が口を開く直前、美稲がたしなめるような語調で言った。
そのまま、誰かが口を挟む前に、美稲は活舌よく、朗々と口を動かした。
「能力者が嫌いって、今まで私のことそういう風に見ていたんだ。みんな優しい人だと思っていたけどがっかりだよ。それに奥井君は今まで自分が能力者だなんて知らなかったんだから価値観はみんなと同じなのに、勝手な言いがかりで責めるなんて酷いよ。それにそうやって相手を取り囲んで見下ろして圧迫するなんて脅迫も同然じゃない。どうしてそういう底意地の悪いことをするの」
「なんだよ内峰、お前オレらよりもこんな奴の肩を持つのか?」
「今は奥井君の肩を持つよ。だって奥井君が一方的にいじめられているんだから」
立て板に水とばかりに言い切った美稲に、連中は途端に狼狽えた。
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本作を読んでくれてありがとうございます。
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重ねてありがとうございます。
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