999勝無敗の男、その名は弁慶

西東友一

プロローグ 999勝の男

———俺は強い。


———だから、枷を作ろう。


「ふっ」

「ぐはっ」

 大柄の男は自身の愛刀である薙刀、岩融(いわおとし)を軽く振ると、対峙たいじする男の日本刀に触れることなく、相手の胸に左肩から大きな傷をさずける。


「うむ、名刀獅子丸ししまるの持ち主と言うから、期待しておったが…」

 大柄な男は倒れた男を見下す。


「…見事だ」

 顔に似合わない優しそうな目。

しかし、大柄の男が送った賛辞さんじは対峙した男に向けられたものではない。

落ちていた刀を拾い上げる。

 刃こぼれもなく、月の光を妖艶ようえんに反射させる。

「これで、999本。まだこんなにも美しい刀があるとは…。しかしなんだな…我よりも強き者を探し、猛者もさと言われるものに武具をけて戦ってきたが…いつの間にか武具集めになってしまったわ」

 その刀をさやに納め、自身の背負ったかごへと入れる。

 その籠も竹などでできているわけではない。鋼鉄の籠。そこへ無造作に入る武具。

 

 刀、槍、棍棒こんぼう鎖鎌くさりがま分銅鎖ぶんどうぐさり十手じって薙刀なぎなた三節棍さんせつこん、わきざしなどがあったが中でも一番多いのは刀である。

 重さにして2000きん、約1トンは超える重さになりながらも、大柄な男は平然と動いている。


 その男の名は弁慶べんけい———


 999勝という歴史上最多の決闘勝利数を記録している男の物語である。




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