51

「今日楽しかったね。」


「そうですね、美味しかったししゃべりすぎて疲れました。」


「僕はちょっと飲みすぎたなー。」


そう言う早田課長は少しフラフラしている気がする。一人で後からゆっくりと歩いてきたところを見ると、やはり飲みすぎなのかもしれない。


「大丈夫ですか?少し休みます?」


「そうだね、休憩していこうか?」


「どこかで休みますか?」


「うん、一緒にお願い。」


早田課長は私にもたれ掛かるようにしたかと思うと、反対側の肩に手を回して引き寄せられる形になった。

そんなに酔っているのだろうか?

一人で歩けないほどに飲みすぎてしまったのかな?

私はそっと背中を支えてあげる。


早田課長に合わせて歩いていくと、キラキラとしたイルミネーションのついた建物がたくさん並ぶ道に出た。

ここは何だろう?

こんなところに休憩するところがあるのだろうか?

キョロキョロと見回すと、休憩や宿泊と書いた看板が目についた。


え、もしかしてこれってラブホテルってやつでは?!

行ったことがないので確証は持てないけれど、明らかに普通のビジネスホテルとは違う。


「ちょっと早田課長、どこに行くんですか?」


「ちょっと休憩するだけだよ。何もしないから。」


「私、帰ります。」


離れようとすると、肩を掴む手に力が込められる。


「何で?いいじゃん。」


「ダメです。」


私が強く言うと、早田課長は不思議そうな顔をした。そしてチッと舌打ちをする。


「ねえ、俺が誘ってあげてるんだよ。嬉しいだろ?今までいろんな男と寝てきたんだろうし、別にいいじゃん。」


普段の声とは違う低く脅迫めいた言葉に、私は身の毛がよだった。

掴まれた肩が痛くてじんじんするばかりか、怖くて上手く声が出せなくなった。

やめてください、助けてくださいと喉元まで出ているのに、心臓をぎゅっと捕まれたように痛い。

抵抗むなしく、引きずられるようにホテルの入口まで連れていかれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る