30

社務所の前におみくじの箱があり、私はお金を入れてから一枚引いた。樹くんも続けて引く。


大吉…

大吉…


心で唱えながらそろりと開いてみると残念ながら“吉”だった。

うん、まあ、凶じゃないし、よしとしよう。

私はすぐさま恋愛運を目で辿る。


「恋愛、焦ると失敗します?!」


おみくじを握りしめガックリと項垂れると、隣で覗き込んでいた樹くんが笑い転げた。

ちょっと失礼だと思う。


「樹くんは?」


不満げに聞くと、樹くんはニヤリと笑う。

樹くんのおみくじを覗くと、


”恋愛、良縁を授かります”


「なんでっ!もー。信じられない。」


年甲斐もなく思わず叫んでしまった。

そんな私に、樹くんは優しく笑った。


「焦らなければいいんですよ。」


「焦るよ。だってもう29だもん。来年は30だよ。友達は皆結婚して、子供3人いる子だっているし。なんか私だけ取り残されてる感。」


「姫乃さん30に見えないし、全然いいじゃん。」


「樹くんは優しいね。」


「そりゃ俺は姫乃さんの彼氏だから。」


さも当然かのように言うけれど、これは恋人の練習なのだ。

練習なのに胸がぎゅっとなってしまって焦る。


「あ、ありがと…。」


小さくお礼を言うと、樹くんは甘く笑った。

それが余計に私の胸をドキドキさせる。


と、ふいにスマホが鳴り出し、私は我に返った。

樹くんにごめんねと断りを入れてから、電話を取ると、渚ちゃんからだった。


「渚ちゃんが、今日一緒にご飯食べたいって。」


「は?いつの間に仲良くなったの?」


私の言葉に、樹くんは目を丸くして驚いた。

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