15
不毛な押し問答のあと、結局我が家へ上がってもらうことになり、私は今カツ丼を前にして少々悩んでいる。
特盛カツ丼なのでカツは全部で四枚あるけれど、ご飯は普通盛りが二杯だ。三人で分けるには足りない気がする。
私は冷蔵庫から冷やご飯の入ったタッパーを出しレンジで温め、そこに分けたカツをのせた。
ついでにキュウリとなすを塩揉みしてめんつゆをかけただけの即席漬物も添えた。
「うわぁ、美味しそう!」
渚ちゃんが喜びの声を上げるも、買ったものをうちの食器に盛り付けただけなので少し複雑な気持ちになった。
「市販品だから美味しいよ。」
「これは?」
「これは私が作った浅漬け。」
渚ちゃんは目を丸くして私を見た。
何だかとてもキラキラとした眼差しだ。
「姫乃さんすごい。美人だし優しいし料理もできるし。」
「ええっ?そんなことないよ、これくらい渚ちゃんもできるよ。」
「渚は卵焼きひとつ上手く焼けないからな。」
「余計なこと言わないで。」
「本当のことだろ。」
「樹のバカ!」
突然始まる大野くんと渚ちゃんの言い合いが面白くて、私はクスクスと笑った。
「ふふふ、兄妹って賑やかでいいね。」
二人は意味がわからないといった顔をしてこちらを見る。
「私は一人っ子だからそんな言い合いしたことなくて。それに毎日一人でご飯食べてるから、今日みたいな賑やかなの久しぶり。一緒に食べてくれてありがとう。」
私はカツを口に入れる。
何だかいつもより美味しい気がした。
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