狐狩り⚓

春嵐

第1話

 田舎と都会の中間ぐらいの規模になる、この街には。よくあるものが、ない。


 大学がなかった。


 普通は、交通の弁の良さを求めて私立大学が駅前に並ぶ。公立大学も、立地や地域性をもとに街中や駅から少し歩いたところに建てられるのに。


 この街には、大学がない。あるのは、専門学校や特殊な区分の学校だけ。


 理由は、分かっていた。


 それでも。


 なんとなく、面倒。


 いちいち大学まで足を運ばないといけないのが。


 携帯端末。鳴る。電話。


『はやくしろよ』


 教授。


「うるせえよ」


 電話を切った。遠いのだから、仕方がない。街中に大学を建てなかった、街や国のせいだし。


 大学は。


 山の中腹をくりぬいた形で、研究施設を兼ねて立っている。街からは、百キロ以上も離れていて。とにかく、遠い。


 遠い理由も、分かっていた。


 また、電話。


『おい。はやくしろよ』


「うるせえよ」


『お前がいねえとはじまんねえだろうが』


 この大学では。


 外部に漏出するとまずいものを研究していた。


 自分も、その一員。


 所属は官邸ではなく文科省だが、鶴の声は官邸から届く。


 今回は、新型の小型中性子弾頭開発だった。


 注文は、地球を壊せる威力。


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