旅する勇者はいつも一人

さだいしるてん

序章【人見知りのロイ】

ロイと女神様



「やっと連絡してきましたね! 今どこにいるんですか!?」


「えっと、今はタタヤ街道に……」


「言いたいことは沢山ありますが、後にしましょう。本隊はあと数時間で到着しますから近くの村で待機していて下さい」


「いえ、それが……あの……」


「何ですか? また一人でいいとか言い出すんじゃないでしょうね。今回の討伐対象は荷馬車を一飲みにするほど巨大なロックワームなんですよ、岩のような生き物じゃなくて生き物のような岩なんです。いくらロイ君が力をつけたところで、剣で岩は砕けませんよ。大人しく合流してください」


「それが、あの……」


「もう! いい加減にしてください! あなた一人ではできないこともあるんです!」


「……倒したんです、今さっき」


「へ?」


「ロックワーム……倒しました。討伐完了の報告……です」


「…………ポートを開いてもらっていいですか?」


「は、はい。えっと 簡易魔法陣スペルパレットを開いて文字を組み合わせて……」


「できました」と言い終える前に、光とともに女神さまが現れた。


「うわああああああああああああああ!」

 

 女神様は目と口を大きく開いて、すごい顔をしていた。

 見ちゃいけない気がして僕は顔をそむける。


 山中の街道をふさぐ巨石のような死骸、最近この街道に出没するようになった迷惑なモンスター。

 大きくなり過ぎたのは輸送中の魔石を食べたからだと、村の人は言っていた。


「どどどど、どうやったらコレ一人で倒せるんですか!」


「女神様にもらった簡易魔法陣スペルパレットで」


「そんなはずありません、それは度々脱走するロイ君の居場所を特定する……迷子になった時の手助けになるよう与えたものです。簡単な呪文しか使えません!」


「はい、なのでこうして摘まんで捻って押し込むと、ほら大きくなって使える文字も増えます」


「勝手に改造しないでください!!」


「えぇ……でもこれ女神様が」


「私そんなことができるように作ってません!」


「ええ!」


「まったく、どうしてあなたは……」


「ご、ごめんなさい」


 女神様は深く息をして、にっこり微笑んだ。


「仕方ないですね、過ぎたことです。では一度村へ戻りましょう、本隊の到着を待ってあなたから報告をしてください」


「え! 女神様がしてくれるんじゃないんですか!?」


「私だってそんなに暇じゃないんです。今こうしている間にも戦っている人たちがいるんですよ。報告も騎士の務めです」


「僕、まだ騎士じゃないので」


「ダメです、トレニアス騎士団に入ったからには階級は関係ありません。大切なのは人々が協力し合って世界のバランスを保つこと、いつも言っているじゃないですか。ちょうど良い機会です、他の方たちとも交流をしてみてください、とっても紳士的な方たちですよ」


「で、でも……僕……」


「な・ん・で・す・か?」


 女神様はにっこり微笑んで僕の顔を覗き込む。

 でも声にすごい圧力を感じる……こわい。


「あっ! なんか急に……お腹が痛い!」


「……ロイ君」


「……はい」


「大丈夫ですか!? どこか怪我をしているのでは? やはり一人では無理があったんです、お腹を見せてください、私が治療しますから」


「だ、大丈夫です! あの、僕隣の村にトイレ借りに行きますから、あの、これで」


「そうですか……どうかお気を付けて、何かありましたらすぐに連絡をしてください」


「はい、ありがとうございます。では!」


 心配そうな女神様を尻目に僕は走り出した。


「強く言い過ぎてしまったでしょうか、人は心の不調が体に出ると言いますし。ごめんなさいロイ君、未熟な私を許してください。あなたの痛みが安らぐよう祈っています」



 ごめんなさい、女神様。


 僕はまた嘘をつきました。


 それでも思うのです。


 沢山の人前で話をするのは、やっぱり怖いと。

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