night close & 午前四時のあなた (⚓)

春嵐

night , close & ......

 生きてきた。ここまで。長かった。


 むかし、夢に見た。今日が、その夜。


「意外と早く来た、かも」


 幻想的な気分。包まれていく。身体から、力が、抜ける。


「今日で私は終わり」


 しぬわけではない。ただ単純に、何かを失うだけ。その喪失は、しぬことそのものよりも大きく、深い。


 失うものがなんなのか、結局、言葉にはできなかった。


 夏から秋に。秋から冬になるように。温度と一緒に、季節がなくなるみたいに。なくなっていく。


「才能、か」


 才能があった。大抵のことはできたし、好きなものを思い描くことができた。そして、それは思った通りになる。


 もし、才能がなかったら。何か、変わっただろうか。こんな夜のなかで、何かを失う感覚にとらわれたりもせず。普通の生き方を。


 望んでも、仕方のないことだった。才能の有無は変えられない。生き方も。変えられない。


 自分は、こうやって。失われていく幻想を、眺めていることしかできない。


 少しずつ、失われていく。


 同時に、感覚も鋭くなっていく。


 失う直前に、より一層研ぎ澄まされる、幻想。


「さようなら、私」


 ゆっくり、研ぎ澄まされたものが、薄れていく。薄い線をぼかして風景に溶け込ませるように。消えていく。


 何も、なくなった。


 目を閉じる。


 もういちど、あの幻想を探す。


 何も、なかった。


「おはよう。私」


 失っても、続いていく私。だから、新しく始めなければいけない。


 ベッドから跳ね起きる。


 手を伸ばして。


 もうそこにはない幻想を、最後にもう一度。


 つかもうとした。


 でも。手を伸ばした先には何もない。


 夜のなかで。


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