03 星ノ2「再会」


東のメリアから、イズ大陸の最も西の海岸。

そこには『カリグラ』というスーチル越境えっきょう調査局の移民管理部主張所がある。


その敷地内、最も海側で一番見晴らしが良く、青くきらめいているさざ波の音とともに、心地よい優しい風が流れる小高い丘。


木々の温もりを感じる素朴で小ぶりな家の玄関口に、コウタの姿があった。


コウタは異常にソワソワしながら、素朴な家の素朴なドアを


さざ波と優しい風音より少し


そう、本当にほんの少し


気持ち程度の強さで、ノックした……。




「はーい! ちょっと待ってくださーい!」


「……ふぅ、……早く出ろよぉ……ふぅふぅ」


家の奥の方から、バタバタと玄関口に音が近づく。


「!!……なんだよ、落ち着け。お前ジィよりも歳イってんだろ? そうだジジイだ。ん?俺はジレンじゃねえ!閣下だ、かっか!かか、かぁ――」

ガチャ。


「ごめんなさー、あ……」


「あ、あ、……」


「帰って」


「……ぁ?」


「帰って!」


「な、なななん――」

「キライキライキライだーーっいきらーーっい!!」

ばたん!





「お、おい……ちょっと……」





惑星イルスーマ創星から372年……。


族長、鉄コウタ 散る。











「っく!ダメだ。聞かないといけない事があって来たんだろ……」


コウタは立ちすくんだまま、手汗まみれの両の手を、開きは握り開きは握りを繰り返している。


ドアに左腕がゆっくりと上がる。

しかし一向にドアに手が届かない。


届こうとはしているが、あと数センチという距離の間で、さざ波と優しい風が大渋滞しているのだ。


「ふぅーーふぅーー」


時が過ぎる。しかし自然の音が時の流れをゆったりと感じさせる――――














――――「ふぅーー!ふぅーー!」


この男は……大丈夫なのだろうか。




ガチャ

ドアが開く、――! ドアが開きましたよ鉄コウタ! あ、失礼、コホン。




「……」


「……」


「はぁ……いるのね」


「ひ、ひさし――」

「先程兄さんから連絡がありました」




「……へ? あ、ああ……へ?」








星ノ3「再会」










「……へ? あ、ああ……へ?」




「ちょっと、なんなんですか? 」




「あ、いや……あの……」




「……話するんですかしないんですかハッキリして下さい」




「あ、ああ。なんだったか……」




「あのぉ!!」




「は、ハハ。ひさしぶりだ……な」




「なんなのほんと……。はいはいお久しぶりですねー閣ーっ下!」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「……元気だったか?」




「元気に見えませんか?」




「あ、いや。……元気そうだ、ハハ……」




「笑えないんですけど」




「……ハハ……あ」




「はぁ?」




「髪、のびたな」




「別に」




「のばしてるのか?」




「別に!」




「……あ、ああ」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「お、オレな……」




「はい?」




「最近な、閣下って呼ばれてんだ……」




「はぁ」




「ジィなんかはな!まだ頭様とうさまなんてよ……」




「はあ」




「呼んでんだ。まだ頭様とうさまって……」




「はぁ……」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「……ここ、いいとこだな」




「なんの話なの……」




「ここ、住みやすいか?」




「……まあ」




「そうか、いいとこだ」




「……まあ」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「あ」




「なんですか?」




「びょ、病気してないか?」




「あなたこそ頭やってるんじゃないんですか?」




「え?……ん?……」




「……なんでもありません」




「……ハハ」




「……」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「飯、ご、ご飯ちゃんと……食べてるか?」




「……それなりに」




「そうか。……俺もだ」




「……はい」




「最近は……一年に一回くらいは、作ったりも……するんだ」




「……」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「どれくらい……ここには、どれくらいなるんだ?」




「……おしえません」




「あ、ああ……そうだな」




「……なによ」




「こ……ここには、ほ、他に誰かか、……誰かと。その……」




「……なんで?」




「……いや」




「なんでそんな事きくんですか?」




「い、いや大丈夫だ……別に」




「何が大丈夫なのよ……」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「移民管理部のやつは来るのか?」




「……まあ」




「変なことされたりしてないか?」




「……何すんのよ」




「い、いや……いやがらせ、とか?」




「ばっかじゃないの?」




「そうか、……ないか」




「あるわけないでしょ……」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「髪、あれだな。似合ってるな」




「……どうも」




「食べ物はどうしてるんだ?」




「なんでよ」




「買ってるのか?」




「だから何でよ」




「……いや、ただ……その、知りたいだけだ」




「…………そ、育ててるわよ」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「……え?……」




「だ、だから……育ててるわよ」




「……だ、誰が?」




「わ、……私がですよ!!」




「……あ……そ、そうなんだ……へー」




「っっっ///っっっ」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)





「……」




「……」




「……」




「……ちょっと」




「……」




「ちょっと!……ねえ!!」




「……」




「ねえ!……ねえって!!」




「……」




「ちょっと!!ねえ!!……ねえってば!!」




「あ、ああ!悪い。何話せば良いのか……」




「はー……もう」




「色々はなしたいんだが……どうも、な」




「……」




「そ、そうだな。時間も時間だし……」




「……まっぴるまだけど?……」




「あ、……ああ、そういえば明るいな。青空だ、に」




「に?……はあ、仕方ないなあ……」




「ん?」




「喋れないならさ。もういっかい。……最初からさ、もっかいやり直せばいいじゃん……」




「っ!! い、いいのか?」




「まあ……まあ別に。はなさなきゃいけないことも、まだはなしてないしさ」




「そうか、ハハ。そうか、そうだな」




「……ていうかさ、覚えてんの?」




「あ、ああ覚えてる!そうか、じゃあ……最初からだな!」




「……うん」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「……へ? ど、どこから……」




「……ちょっと、なんなんですか? 」




「あ、いや……」




「話するんですかしないんですかハッキリして下さーい」




「あ、ああ!するよ!……話しに来たんだっ!つばさに!」




「あのぉ……」




「ハハ。ひさしぶりだな」




「ふふっ……。はいはいお久しぶりですねー閣ーっ下!」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「元気だったか?」




「元気に見えませんか?」




「いや。元気そうだ。とても……」




「笑えないんですけどぉー」




「髪、のびたな」




「うん」




「のばしてるのか?」




「少しね」




「そうか」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「あ!オレな!」




「うん?」




「最近な、閣下って呼ばれてんだ!!」




「ふふ、しってるよ?」




「そ、そうか。ジィなんかはな!まだ頭様とうさまなんてよー!」




「ふふっ、うん」




「まだ頭様とうさまって呼んでんだよほんと!」




「ジレンは変わらないね」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「……ここ、いいとこだな」




「……うん。いいとこだよ。とても」




「ここ、住みやすいか?」




「うん!」




「そうか、いいとこだ」




「いいとこでしょー」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「ああっ!!」




「なに?」




「病気してないか?」




「私は大丈夫だよ。コウタこそ体に変調はないの?」




「え?……ああ! 元気そのものだ!!」




「……よかった」




「ありがとな」




「うん」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「飯ちゃんと食べてるか?」




「それなりに。ふふ」




「そうか、俺もだ」




「ほんとにー?」




「最近は一年に一回くらいはな。作ったりもするが、なかなか、な?」




「すごいじゃん!」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「ここには、いつからいるんだ?」




「……おしえません」




「あ、ああ……そうなのか……」




「……なによ」




「ここここには、ほほ他にだ誰かか、……誰かと。そのそ……の」




「え?」




「……いや」




「なんでそんな聞きづらそうなのよ」




「い、いや大丈夫だ……別に」




「何が大丈夫なのよ……」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「移民管理部のやつは来るのか?」




「くるよー。お土産とか持ってきたり」




「お、お土産!?」




「あれじゃない? 兄さんが……」




「ああ……そうだったな。たつきか」




「会わないの?」




「いや、別に会う機会がないからな。今度の同盟会議は……どうなんだろうな」




「そっか……そだね」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「髪、あれだな。似合ってるな」




「へへー。ありがと」




「食べ物はどうしてるんだ?」




「うーんとね」




「か、刈ってるのか?……フフ、ハハっ」




「わ、わらうな!」




「いや悪い。可愛くてな…………あ……」




「なっ…………なっ……」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)




「……え?……」




「……」




「……だ、だだっ」




「ちょっと!! かんべんしてよ!」




「……あ……そ、そうだな。わるい」




「っっっ///っっっ」




(ザザーー……ン ザザーー……ン)





「……」




「……」




「……」




「……ちょっと」




「……」




「ちょっと……ねえ」




「……」




「ねえ……ねえって」




「……」




「ちょっとーねえっ!……ねえってば!!」


「……」


「ちょっとねえっ!!……コウタっ!!!」


「あ…かった…」


「――っっ!! ちょっ!!――」

「――会いたかった――」





  「――本当に、会いたかった――」




「……」

「すまない、少しだけこのまま」




「ねえ……はなれて?」

「252年と5ヵ月だ……」





「……」

「つばさが離れて……」





「……」

「お前が離れて……」





「……」

「長かった……」




「……」

「つらかった……」






「……」

「こわかった……」






「うん……」

「お前の気持ちを考えないで……」






「うん……」

「本当にすまなかった……」






「っっ……う゛……ん」

「すまなかった……」






「ッヒッ……クひっ……う゛ん゛ん゛」

「お前も辛かっただろ……」


「――っっ!!……ひっぐ!!」

「もう大丈夫だから……」






「っわ゛ぁぁああ゛あ゛あ゛ーーっ!」

「大丈夫だから」

「あ゛あ゛ぁん゛んっわあ゛あ゛あ゛ーっ!」

「大丈夫」

「あ゛っあ゛ぁん゛ひっく゛ひっく゛んっわあ゛あ゛あ゛ーっ!」

「もう大丈夫だから」

「んんん゛んっわあ゛ーっあ゛あ゛あああ!!」


「……」



「…………」



(ザー………………ン)



(ザザーー……ン ザザーー……ン)



(ザザーー……ン ザザーー…………ン)








星ノ2「再会」完

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