心のセカイ
夕霧
心のセカイ
そこは見渡す限り一面の草原だった。
そこにぽつんと佇む腰ほどの高さの丸みを帯びた石に背を預ける様に僕は腰を下ろしていた。
緩やかな風が吹く。
草原が静かに靡いた。
僕は天を見上げた。
雲一つない空である。えも言えぬ青であった。
ふぅーっと空に向かって細い息をゆっくりと吐き出し、
視線を草原に戻す。
先程よりも少し強い風が僕の頬を撫で、
草の間をするりするりと駆け抜けていった。
これは波だ。
僕はそう思った。
風は弱く吹く。かと思えば急に強く吹いたりもする。
草原も風の吹くままに揺れ靡く。
決められた形の無い、自然が刻むリズム。
その波を僕は感じた。
あぁ、そうだったのか。否、そうだったのだ。
僕はこの波を知っている。
この風が何処から来て何処に向かうのかを、
僕は知っていたのだ。
僕のことを何も知らない僕は、確かに知っていたのだ。
僕は静かに目を閉じた。
僕はゆっくりゆっくりと目を開いた。
風の波はもう消え去っていた。
草原の揺らめきも消え去っていた。
僕は石から背を離し立ち上がった。
なんだか眩しいような、ポカポカする様な感じがした。
僕は歩み始めた。
確かなその一歩を。
心のセカイ 夕霧 @lagat
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます