36話:長いものには巻かれなさいってじっちゃんが言ってた

「ちょ! ちょっ!」


 襟首を掴まれている点心さんは、俺のことを見て騒いでいる。


 ちなみに俺も点心さんも、この高さから落ちて無傷になる方法なんて考えてない。


「えっと、点心さんを助ける。

 俺はスキルで助かる」


 そこで、今考えていることを手短に説明する。


 俺には【生の執着】スキルがある。

 試し事はないが、落下ダメージにまで作用するとは思う。


 そして、点心さんは俺の知っている範囲では、落下に対する耐性もないし、宙を浮くスキルなんて持ち合わせていない。


「どうやって!!!」


 地面に衝突するまで、およそ10数秒。

 なので速くと言わんばかりに焦った表情を点心さんはしている。


 いつもJKの様な風貌で大人な感じなので、こういう感じになるのは少し面白い。


 そんな余計なことを考えつつ、


「攻撃して」

「は?」

「良いから攻撃して」


 点心さんは俺の言っていることがわからないらしく、呆けているが、今はそんな時間はない。

 俺が素早く武器を抜刀して、何をしようとしているのかを教える。


「パリィする」

「……あぁ!」


 恐らくわかっていないけど、自分が何をすれば良いのかは理解した様子のだろう。


 点心さんは急いで店売りのナイフを取り出した。

 そんな強くもない普通の武器だ。


「いくよ!」


 落ちているのが怖いのか、語気が強い。

 落下する系のゲームはあんまりやらないのかな?


 共に落下する点心さんが、空中で体勢を変えながら、俺にナイフを突き出してくる。

 ちょうど、点心さんが上から俺を刺すような形だ。


 地面に衝突する。


 同時に、


「パリィ」


 俺は点心さんのナイフを攻撃。


 しっかりとストロングポイントを見ながら、絶対成功するパリィを行う。


 その結果。


『101829の攻撃。ダンのパリィ。【パリィ】スキルの発動。【パリィ】スキルの発動。成功』


 点心さんの体は、俺のパリィの成功によって、弾き飛ばされた。


 パリィスキルは、パリィに成功した場合、相手の体を弾き飛ばす。

 その仕様が少し不思議で、パリィの効果が出るタイミングにかかっている慣性が消えるのだ。


 トーガ戦で見つけた仕様で、空中にいる時にパリィに失敗すると、落ちながら弾き飛ばされるわけでなく、その場で弾き飛ばされるのだ。


 それを利用すると、


「おわっt」


 点心さんにかかっている落下の慣性が消え、少しだけ上に弾き飛ばされる。


 ドゴォォォンン……


 そして、俺が地面と衝突した。


『ダンは落下した。1411のダメージ。【生への執着】を発動。再使用まで後180秒』


 まだ先見の瞳は使っていないため、HPは満タンであるため、そこそこ耐えると思っていたが、ダメージを見る限りそんなことを言ってられるダメージでもなかった。


 最大値が減らずともオワタ式になる自分にため息を付きながら、うまく着地した点心さんを見る。

 どうやらダメージはないようだ。


「なんてことをしてくれているんですか!」

「助かったから許してちょ」

「助からなかったらイベント脱落だったんですよ!

 開始5時間で!」


 イベントから脱落すると、残り時間は観戦ルームで観戦することしかできない。

 別に楽しくないわけではないだろうが、初期で脱落すると暇なのは確かだ。


「あ、逃げるよ」

「話聞いて……ってそうでしたね」


 点心さんの小言を打ち切り、逃げるためにどちらに進むのかを考える。


 進める方向として、G、H、Kの選択肢がある。

 Gが一番戦火に近くなるため、リスクは高いが逃げ切れる可能性は高い。


 それ以外だと、逃げ切るには何か策を打たないとだめな気がするが……


「Gに逃げましょう!」


 恐らく俺と同じ様な思考をして、その先まで考えた点心さんが、戦火に向かい身を隠すのが最適だと思いついたのだろう。


 だが、俺はそこで待ったを、


「了解!」


 かけるわけがない。


 いやだって点心さんのほうが優秀なのは知ってるし。


 ここで俺が反対して墓穴掘ったらどうするよ。

 おじさん責任とれんよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る