31話:ボッ立ちっていつから使われている言葉なの?
「で、これはどういう状況ですか?」
「手伝いっしょ」
「それにしてもこれはなんの拷問?」
「そりゃ、手伝い……かな?」
点心さんの自信なさげな言葉に、俺は苦笑いで返す。
現在、俺は東の荒野に来ている。
東の荒野は、その名の通り視界いっぱいに荒野が広がる土地。
モンスターは一見存在しない。
こんなところに、俺は初期装備である麻の服すら着ていない状態……つまり最低限のインナーのみで立っている。
後方には点心さんが俺のことを見張っていて、ギリギリ声の届く距離で会話している。
「ここで待っていれば大丈夫なんですよね?」
「それは確か」
「だったら別に装備外す必要ないですよね?」
「それも確か」
ちなみに、この会話は全てかなり大声で繰り広げている。
そうしないと聞こえないのだ。
点心さんの声に装備に着直そうかと思っていたら、俺の視界が下から真っ暗になる。
先見スキルを持ってから知ったことだが、この手の視界の異常は大抵波状攻撃食らったときの視界であるため、思い切り前に走り出す。
「出た!」
「わかってます!」
走り出した直後、背後で声と轟音が聞こえる。
着地と同時に振り返ると、そこには奇妙な魚がいた。
下半身は魚。
そして上半身は、
「もぐら」
モグラフィッシュ。
それがこのモンスターの名前であり、俺らの今回の目的のモンスターだ。
少しキュートな名前とフォルムだが、俺の2倍の全長だ。
怪獣、といっても差し支えないだろう。
それにモグラ部分の前足には、巨大な爪が存在しており、あれで襲われたらひとたまりもない。
陸に打ち上げられたモグラフィッシュ。
一瞬の静寂。
俺の方を向いた。
先見スキルが発動。
モグラの爪での攻撃を見る。
見えた瞬間全力で回避。
右手での攻撃なので、右に避ける。
左に避けたり後ろに避けると追撃を食らう。
先見スキルのおかげで 爪は避けれるが、その先を更に見せてくれる先見スキルは、嫌なものを見せてくれる。
「知ってるけど、だとしても怖いっ!」
モグラフィッシュの爪が地面と衝突した瞬間、爆発。
地面との設置点を中心として、爆風がこちらに迫る。
もちろんこれは先見スキルでの光景なので、ダッシュで逃げる。
事前に聞いてはいたが、怖いものは怖い。
でも、避けれる。
もうMPはマイナスに突入したが、くらわなければ大丈夫。
「っても」
自分で言うのも何だが、一対一で先見スキルは超強い。
トーガだとしても、あれくらいの火力を要ししないと俺に攻撃を当てることは叶わなかったのだ。
こんなモグラ程度で攻撃を食らう、なんてことはない……と言いたいところだが。
実は先見スキルにも割と弱点はある。
幾つかある方法の一つに『速い攻撃』というのがある。
俺がいくら予備動作を感じ取ったって、俺の回避より速く攻撃できれば攻撃は俺に当たる。
単純な理屈だが、それをされると俺にはそれを超えることはできなくなってしまう。
そして、目の前のモグラフィッシュはそれに近い性能をしている。
なんたってここは東の荒野だ。
荒野の適正レベル知っているか?
「勝てるわけ無いでしょ!」
「勝つ必要ないの!」
40レベル。
初期ポイント以外速力に極振りしているからこそなんとか対応できているけど、マジで先見スキルフル稼働してなんとかギリギリだ。
パリィしようにも早すぎてストロングポイント見つからんし、早すぎてタイミング合わせられないし、パリィをすると目的を達成することができないのでやらない。
「やってる?!」
「やってるっての!」
目的、というのはモグラフィッシュから取れるある素材の調達だ。
本来、モンスターからの素材というのは討伐によってドロップするのだが、一部モンスターは特定アイテムを使うことによって、戦闘中にアイテムをドロップする。
モグラフィッシュのドロップ品は、『火薬』
爪に火薬の素材があるようで、現在進行系で起きている爆発のための素材だ。
モグラフィッシュがこの荒野の地面で爆発を起こすと、少量の火薬を落とす。
それを『木製のショベル』という専用アイテムで土ごと堀り、とあるNPCに依頼すると、火薬を入手できる。
これのおかげで最近重火器が使用できるという話がこのゲーム内で上がった。
「これどれくらい続ければ良いんでしょうか!」
「後100発!」
「え」
採集の方法と俺のやることは聞いたが、どれくらいやるのかは聞いていなかった。
思わず思っていたのと桁が一つ違うのに、呆然とした。
瞬間、
「おぉぉあぁぁぁ!?」
背後での爆発。
爆風に巻き込まれ、俺の体は宙に舞う。
『【生への執着】が発動しました。
クールタイムまで後180秒』
あ、まだ使えるか検証してなかったけど、今わかったわ。
ゲーム時間で6時間が鬼ごっこで消えた。
社会人にとっちゃ重すぎる時間なんですが……
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