30話:多分強くなったけど、それって大抵思い込み

 『盾の試練:拒みの試練』

 それは全ての武器の種類分ある『試練』クエストシリーズの一つであり、盾クエストの最高難易度のクエストがある。


 ……最初に断っておくと、俺は一切盾を使う気はない。


 何かのめぐり合わせとして盾を使うのであれば話は別だが、それ以外で自発的に盾を使うことはない。


 いろいろな理由はあるが、普通に考えて自動で発動する『先見の瞳』スキルと自動的に減っていくHPの上限に対して、ダメージを軽減する意味合いで使う盾は非常に相性が悪いのだ。

 後普通にパリィというものは攻撃じゃないとだめなので、盾でパリィができない。


 それで話を戻すが、この『盾の試練:拒みの試練』の内容は、簡単に言うと一定地点にモンスターの侵入をさせないというものだ。


 合計10匹の牛を30分間。

 3匹ごと来て、最後の一匹はボス格が登場する。

 ひたすら突進してくる牛を盾で守っていくのが基本だ。


「やっと手に入った……」

「普通にすごいじゃん」

「ほんとにすごいと思ってる?」

「思ってるよー」


 本来なら、盾の必須スキルである『バッシュ』スキルを利用することでなんとかする。

 『バッシュ』スキルは盾で攻撃を受けた時、相手にノックバックをするスキルで、パリィと似ているが、圧倒的にそっちのほうが使いやすいスキルだ。


 だが、ダメージを受けてしまったり、盾でしか使えないなどの部分は盾スキル特有のものであり、パリィはその点では優れている。


「いや、普通に考えてさ、未だに検証不十分な最高難易度試練クエストで、あるかも不確定なスキルのために、専門武器意外で立ち向かって三回目でクリアするのよ?

 おかしくない?」

「あ、はい」


 ここはアインス内にある飯処。

 少しお高めなカフェの様な装いのここで、俺と先程まで一緒にいた点心さんは休憩している。


 クエストを受けていたときから変わらずウィンドウを操作していた点心さんだったが、おもむろにウィンドウを消しながら、俺に淡々と話しかけてくる。


「ぶっちゃけ。

 いつもアカリと一緒にプレイしてるなー、って印象だったからあんまり覚えてなかった。

 それにあんまりうまいとも思えなかったから今日も見るだけ見て考えようとしていたけど」


 目の前にいる点心さん。

 JKの容姿をしているが、この人は結構なゲーマーで、アカリつながりで俺と知り合いである。


 雑食で、特段秀でたことはないが、それなりに何でもこなせる、俺と似たような人だ。

 しかしこの人の方が単純に俺より性能が高く、上位版といっても差し支えないだろう。


 その人にダメ元で連絡を送ったら、先日返信が来て、少しプレイの光景を見せてもらってから考える、という返事をもらった。

 他の人は基本的に既に組む人を見つけていたりしていたので、他に頼る宛もなく、こうして二人で今日行動している。


 ちなみに仕事終わりなのでだるい。


「でも、今日の見て変わった。

 それだけやれるなら本気だすよ」

「え?」

「マジよ。

 しかも話に聞いたらアカリから組まない、って言われたって話だし」


 アカリがねぇ、とクツクツ笑う点心さん。

 百瀬という人物も、アカリという人物も深く知っているわけではないので、俺としてはアカリの言葉にどんな意味があったのかは知る由がない。


 多分一緒にプレイすることが多い点心さんのほうがアカリというプレイヤーのことをより知っている位だろう。


「一応整理するよ?」

「あ、はい」

「あんたの基本スタイルは、双剣でのパリィによる長期戦。

 後は未だに誰も使えない魔術の複数発動。

 魔術のMP不使用発動。

 魔術の無効化。

 攻撃の先読み。

 パリィの高確率発動、成功。

 それと、今回手に入れた新たなスキル『生への執着』」

「あ、はい、大体あってます」


 今回、わざわざ盾クエストという意味不明なクエストを受けたのは、もちろん意味がある。

 それは新しいスキルの取得のためだ。


 それが、『生への執着』


 効果は、HPが全快の状態から死に陥る攻撃を食らう時に、HPを1残して生還するというもの。


 普通にクリアするのでは手に入らなく、全ての牛を倒さずに30分間守り続ける、というクリア条件を満たした時に手に入る……という情報があった。

 不確定な情報で本来ならばもう少し情報が集まってからにすればよかったのだが、このスキルは俺に必要であるため、今回は点心さんに見定めてもらうのと同時に攻略した。


 正直、スキルの内容的にはもしかしたらHPが1が全快、という判定が来ない可能性もあったが、それでも欲しいスキルではあるし、何より……


「大体?」

「あ、はい。

 パリィに関しては、絶対成功します」


 生得の『パリィ』スキルを取得したのが、これを攻略できると見切りを着けた理由だった。


「……絶対?」

「正確には、今までと同じ方法でやった時に限り、パリィは絶対に成功します」


 生得のパリィスキル……生得パリィは、この様な効果だ。


 パリィ。

 効果:パリィの発動しない攻撃でパリィを発動させる。

    パリィが発生した場合、パリィの成功率を上昇。


 昨日のうちにできるだけ検証した結果、俺は今まで通りのストロングポイントに対するパリィに対して100%の成功率を出せるようになった。


「あと、通常パリィが発生しない攻撃でもパリィが発生して、80%位成功します」

「……えーっと、つまり相手の攻撃に対してほぼパリィできるってこと?」

「相手の攻撃に対して攻撃できれば、です」


 点心さんは開けた口が塞がらない、といったようだ。


 俺も驚いている。


 何かが違うのか、ストロングポイントにベストタイミングで攻撃したのと、そうでないときではパリィの成功率が違う。

 今までと同じようにキレイにパリィすると、絶対失敗しなかった。

 ソレは相手が誰であろうと、だった。


「だからあんなにらくらくと牛を相手にしてたのね……」

「あはは……」


 先程のクエストは、出てくるのが牛型のモンスターであり、牛の攻撃方法は突進。

 それに基本的にストロングポイントは変わらない。


 親玉であっても同様で、非常にやりやすかった。


「……もしかしたら、ほんとにアカリに勝てるかも」

「いやいや、それはないですよ」

「……勝ちたいとか思わないわけ?」


 少しキョトンとした顔でこちらに問いかけてくる点心さん。


「正直、俺にアカリに勝てる要素はないと思っています。

 どれをとっても恐らく俺はアカリの足元に及ばないです」

「でも、かなりやる気じゃん?」

「だからこそ、どこまでも準備して、勝ちを拾えるようにするんですよ」


 なぜだろうか、点心さんが身震いしたような気がした。

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