16話:決めきれない男

 自身のステータスを確認後、敵のことを思い出す。


 火球の来た方向には、先程とは違いゴブリンメイジの姿がそこにあった。

 まるで俺のことを誘い出すかのようにそこに棒立ちしている。


 いつもなら突貫しても良い。

 最強スキルが手に入ったので、そろそろレベル上げに着手しようか、なんて考えていた頃だ。


「お前にかまっている暇はねぇよ……」


 だが、今はちょっと事情がある。


 ログを表示し、横目に見ながら走り出す。

 方向はアインスへと。


 ログにはもちろん『先見の瞳スキルの発動』というものが存在している。

 アインスへと向かいながら、ログをスクロール。


 先見スキルの発動回数は、先程のものを含めると四回。

 今さっき発動した事により減ったMPとHPの最大値を見るに、


「何がどうなってるのかは知らないけど、これ死ぬかもしれない」


 先見スキルは一回に付きMPを20消費する。

 本当なら魔法はMPがなくなれば使えなくなるはずだが、これは何故かマイナスの値まで使えるようになっている。


 マイナスの値のステータスとか理解が不能だけど、現状そうなっているので疑問は後回し。


 それで、先見スキルの効果か仕様なのかは知らないが、MPがマイナスになるとその分HPの最大値が減る。


 現状HPの最大値は29。

 一回使うごとに20の消費。

 つまり、


「後2回で死ぬ」


 もしかしたら1残るかもしれない。

 もしかしたらスキルが発動しなくなるかもしれない。


 というか第一ゲームで死ぬことなんて深く考えてはいけないと思うが、個人的になるべくゲームオーバーは避けたい。

 前に死んだ時に結構面倒くさかった、というのと、リアル感が強いゲームだから避けたいと思うようになった。


 というか自分のスキルで自滅するのは恥ずかしい。

 そのために今ダッシュしている。


 ゴォォォぉぉ


 後ろから何か燃えているものが接近しているのが聞こえる。


「発動してるしっ!」


 ログを表示したままなので、先見スキルが発動したのがわかった。


 後頭部から火花が見える。


 火球が近づいている音はまだ聞こえる。


「そういうことっ!」


 その直後、人一人分体をずらして走る。


 それと同時に先程まで俺の後頭部があったところを火球が通り過ぎる。


「瞳、だからか」


 先見の瞳。

 つまりこの予知は瞳……視覚にしか作用しない。


 だから先程のように俺の背後から音もなく火球が当たったのが見え、その後に音の出る本物の火球が追従してきた。


 で、


 HP(体力)…9/9(62-53)

 MP(魔力)…-53/47


 俺の初期体力を割ったでおい。


 後一回発動すれば恐らく終わりかもしれない。

 足に込める力は強くなる。


 しかしステータス分の力しか反映されないこの世界では、先程から速度が変わることはない。

 流石にもう終わりか、もしくは死なない仕様なのか。


 後者であるようにっ!


 先程の戦いから掴んだ、魔法のクールタイムは過ぎた。

 次の火球が飛んでくる。


 神様仏様横山部長様っ!


 横山部長はいつもはみんなに厳しく、飲み会の席だと死ぬほど子煩悩で飲み代をおごってくれる良い上司だ。


 あの人は割と運がよく、祈っとけば結構うまくいくと俺の部署で謎の迷信が生まれている。

 今まで信じたことはなかったけど今回ばかりは頼らせてもらいますっ!


 後10メートルで森を抜けるっ!


 スキル発動しないでくれぇ!



 ぎゅっと閉じる目。


 走り幅跳びの要領で思い切り体を投げ出す。


 転がる体。


 それを感じ、すぐさま立ち上がり目を開くと、


 目の前には街の外壁が存在していた。


「あっぶねぇぇぇ……」


 ホッと息を吐いて、開きっぱなしのステータスを見る。


 HP(体力)…1/1(62-61)

 MP(魔力)…-73/47


「間に合ってなかった系だねぇぇぇ……」


 頭上を火球が飛んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る