今日も今日とてパリィ日和!!!
ぬー(旧名:菊の花の様に)
第1話:最近の宅配はすごい
帰り道。
特になんてことはない、会社からの帰り道。
もう目を瞑っても帰れるのでは無いか、というくらい見慣れた帰り道。
会社の最寄り駅から、電車で三駅。
そこから10分ほど歩いてある少し寂れたアパート。
その二階の角部屋。
そこが俺の住む家だ。
男の一人暮らしにセキュリティはいらない。
明日からの休みに心を軽くしながらも、階段を登る。
「ん?」
階段を登って、自分の部屋の前を確認して、俺は疑問の声を出した。
そこには、誰かがいる。
おかしい。
今日誰か来るなんてことは確実にない。
不審者?
それになにか持ってい……
「あ、お疲れさまです」
宅配だ。
それに気づいた俺は、すぐさま家の前まで小走りで駆け、その男に話しかける。
何か持っているのは、恐らくは頼んでおいたものだろう。
「あ、こんばんは」
今どきの宅配便というのは、時間を指定することもできる。
今は午後9時。
指定できる最大に遅い時間に届けてもらったというわけだ。
「えっと、高橋なんですけど……」
「あぁ。ここの」
宅配の人は、少し年の取ったおじさんで、仏頂面だった。
そういう顔なのかもしれないが、それでもそういう表情に見えるので少し気圧されてしまう。
語気を強く話すので、恐縮しながらも、家の鍵を開けて本人アピールをしながら、荷物を受け取る。
「ありがとうございました」
「はい」
仏頂面の宅配員はそのままトラックへと戻っていく。
返ってくる時はトラックなんて気づかなかったが、少し遠くに止めていたらしい。
「ただいまぁ」
一人暮らしだから、別に言う必要は無いのだが、一人暮らしだからこそ言っている言葉だ。
少しは寂しさが和らぐ。
玄関で靴を脱ぎ、台所のケトルをつけ、カップラーメンを用意する。
そのままスーツを脱ぎ、適当にハンガーに掛け、部屋着に着替える。
そのまま台所に戻り、ケトルを眺めながら、宅配の荷物を持つ。
小さい箱だ。
パソコンが入るくらいの大きさのダンボール。
「あっ」
ここで自分が何を頼んでいたのかを思い出す。
そして同時にこみ上げてくる、ウキウキ感。
適当にダンボールのミシン目を開き、中を確認すると、
「おぉ」
底にあったのは、手のひらサイズの小さな箱。
二つ折りで、少し厚みのある箱。
表面には大樹のイラストを背景に、真ん中にデカデカと文字が書かれている。
『Yggdrasil ユグドラシル』
別にルビを振っているわけではない。
読みとしても、『ゆぐどらしるゆぐどらしる』という呼び方であっている。
これは、ゲーム。
ケトルのお湯が沸く音を確認し、ゲームを適当にシンクの縁に置いておく。
危ないけど一瞬だ。
まぁ良いだろう。
お湯をカップラーメンに注ぎ、すぐさまリビングの小さなテーブルに持っていく。
そしてすぐさま台所に戻り、ゲームを取りに行く。
カップラーメンができるまで、後3分。
ベッド脇にあるコードのつながったサンバイザーのような物をかぶる。
耳元にあるスイッチを入れると、
『ようこそ、ダン様』
灰色のフィルターのかかった現実の景色が、元の色を取り戻す。
そして、真ん中に表示されるウィンドウ。
俺は『Yggdrasilユグドラシル』の箱を開ける。
二つ折りを開いたその箱の中に入っているのは、USBメモリに似たもの。
消しゴムくらいのサイズのそれを手に取り、サンバーザーのようなものの横に取り付ける。
『Yggdrasilユグドラシル』
視線に寄る操作で、今取り付けたゲームを選択する。
ロード中。
だよな。
カップラーメンができたことを右上に表示されている時計で確認し、晩飯を口に放り込んでいく。
ゲームはダウンロード中。
今日の0時からプレイ可能だから、先行プレイ組の情報でも漁っておくか。
視線操作による華麗な同時並行作業で、俺は情報と胃を満たしていく。
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