ねこみみラブちゃーむっ!猫神の呪い(まじない)は7代まで続くっ!

にゃんもるベンゼン

1話 不幸なオープニング

 2009年、夏、長崎。

 俺は、千夜文彦。普通に高校に通う、高校3年生。

 ……が、俺は、変わった高校生であることを、前提として知っていただきたい。

 俺は、物凄い不幸な運命を背負っている。

 要するに、学校で不幸な人間第一位に位置することができる人間ってこと。

 正直、この不幸体質のせいで、毎日ろくなことはない。

 たとえば。

 今日は学校に行く途中で、強面のおっさんに絡まれ。

 挙句、危うく殺されそうになったり。

 たとえば。

 財布を落としたり(泣)……。くそう、泣けてきた。

 そんなこんなで学校に来たなら、俺の制服は当然乱れているわけで。

 校門をくぐり抜けたなら、裏から出てきたのは幼馴染の女の子。

 緑の黒髪を湛えた、翡翠の瞳を持つ少女。お節介焼きのひすいである。

 登校時に、酷い目にあってきた俺の姿を見たならば、あっと息を詰まらせる。

 「もう、こんなに乱れて。出てくる時、ちゃんとしないと女の子に笑われちゃうよ!」

 「いや、その、これは理由があってだな……。」

 そんな俺を見かねて、乱れた服装や髪を整えだすひすい。

 いつものお節介焼きである。ぶつぶつと、文句のようなものを言っているが。

 その様子は正直嬉しそうでもある。

 俺は、少し恥ずかしくて、こうなった理由を言おうとしたのだが。

 話を聞いてくれそうもない。

 「あらあら。随分と仲がよろしくて!」

 「うげ……。」

 その側を、沢山の生徒が通り過ぎていくのだが。

 その中で、1人立ち止まり、俺とひすいを冷やかすように言った。

 見れば、それはきれいな長い銀髪の少女、萩原クリスである。

 ちなみに、ハーフのようだ。

 しかし、しかしである。

 美しい見た目とは裏腹に、性格はお嬢様のようなものでもなく。

 むしろ、男勝りな強気であるのだ、残念ながら。

 だから俺は、彼女を男女だの、何だの呼んでいる。

 怒ったらすぐに暴力を振るうその様子に。

 もう1つ、メスゴリラと呼んでも過言ではなかろう。あ、言い過ぎるとちょっと。

 そんな彼女の顔を見れば。

 朝からラブラブ(?)のこの様子を見て、少々不機嫌な様子。

 無理しなくても、そも俺とひすいの仲だ、不思議じゃないし、いつものことだし。

 とか言って、弁明は無意味。

 ……おっと、もう1つ、不幸なことが起きたな。

 それは、このメスゴリラと会ってしまったことだろう。

 それを考えると、また泣けてくる。

 ただでさえ、財布を落として泣くような目にあったのに、だ。

 「ちょっと!私がいると不満なの?!」

 その様子は、彼女の気に障ったらしく。

 彼女は不満な顔から、失礼だと言わんばかりに怒りを露にしていた。

 「いや、まあね……。ここでクリスのような、女じゃない女に出会ったことが、今日一番の不幸じゃないかと思ってね。……あ。」

 「!!」

 その傍ら、俺は自ら何を言っているのだろうか?弁解するつもりだったのに……。

 あ、と思い、口を手で押さえた時には、もう全て遅かった。

 クリスは顔を伏せ、歯を剥き出しにしている。

 怒りを噛み潰すようなその顔は。

 その身に秘められた何かを辛うじて抑えているからなのか?

 違う。

 彼女はその身に秘めた何かを覚醒させようとしているのだ。

 「乙女に対して、あんたはぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 「がっ?!しまった!!ぎゃぁあああああああああああ!!」

 彼女が顔を上げたなら、その瞳は激怒の色に染まっていた。

 その瞬間に、一気に俺に接近すれば、ひすいを引き離し。

 俺に対しアッパーを喰らわしてくる。

 気がついた時には、その一撃が入っており。

 更に悪いことには、彼女の連撃をその身に与えられたことである。

 俺の体は宙を舞い、また、お手玉をされるように空中で弄ばれた。

 凄まじい痛みと共に、俺は空中を舞った。

 「……ふーちゃん、デリカシーなし……。」

 そんな俺の様子を見て、ポツリと呟くひすい。

 フォローしてくれないひすいに、俺は正直悲しみを感じていた。

 頼む、こんな空中遊泳は嫌だ。

 誰か、止めて……。


 その暴動が終わった後、俺は全身を引きずりながら授業を受けた。

 痛くて、何1つ頭に残っていやしない。

 くそぅ、何て災難だ!!

 どこにもやり場がないこの怒りを、机を叩くことによって発散しようとしたが。

 あまりの硬さに、逆に痛みを与えられ、俺は手を押さえて蹲った。


 では、話を自分にして。

 そんな俺がどうして不幸なのか?

 以前親父に聞いたことがあるが、何やら呪われているらしい。

 そう聞いたのは、中学3年生の頃である。

 ……ちょっと待て、どうしてそういう話をもっと前にやらなかったのか?

 親父に対して問い詰めたことがある。

 しかし親父は、「すまん、忘れてた(てへっ)。」と舌を出して。

 おどけて答えただけだった。

 をい!

 忘れていたならともかく、最後の〝てへっ〟、は何だ!!

 くそぅ、それを思い出すと何か腹が立ってきた!!

 一体、何に呪われたんだよ!俺たち一族は、一体何に呪われているんだよ!

 それを具体的に教えてくれよ。

 何をやらかしたのかも、付け加えてな。

 不幸を思い出せば、ますます怒りがこみ上げてしまった。


 

 …………

 ………

 ……


 やり場のない怒りを抑えつつ。

 俺はアーケードの隅にある、小さな……というか。

 怪しさ満点の店に足を向かわせていた。

 この店は、魔女の店。決して、宅急便などをやっている店ではない。

 パワーストーンとか、そういうのを売っている……らしい。

 なお、ここには用がある人間しか見えないよう。

 中に住んでいる〝魔女〟が魔法を掛けているとかなんとか。

 で、俺の用とは、『浄化』して欲しいものがあるからだ。

 その〝もの〟とは、手にすっぽりと収まるぐらいの大きさの水晶球。

 なお、ただの水晶球ではない。

 光を当てると、透明な中に星の輝きを示す特殊な水晶球である。

 何でも。

 俺の先祖が、その呪いを軽減するために、持ち始めたのが始まりだとのことだ。

 ……なぁんて言っているが、今日も昨日も、不幸ばっかりだよ。

 正直、この話は信じられない。

 それでも、毎日欠かさず、浄化すべしとか言い残しやがってって。

 この水晶、流水であらいつつ、悪いものを流す。

 とかいう方法では浄化できないらしく。

 この店に行かないとできない特殊な物なんだとか。

 いつもこの店に行っていると、噂になると正直嫌になるのだが。

 致し方ない、そういうことなのだから。

 中に入ると、待っていたと手招く目深いローブを被った女性が1人。

 頭を下げ、こちらへと案内してくれる。

 それは、俺がもうお得意様になっているという証拠だろう。

 いつもの、と俺は水晶球を差し出した。

 女性は、こっくりと頷き、店の奥へと入っていった。

 そこからは、少々長いので、一息つき、近くにあった椅子に座る。

 ……が、埃まみれで、正直座る気にならないが。

 あの女性は、『琥珀』と呼ばれている、魔女あるいは魔法使い。

 だが、その顔がどういう風になっているのか、知っている人はいない。

 ずっと使ってきたであろう、親父や祖父も、見たことはないと聞いた。

 つまり、余計に謎だから、この店が余計に怪しく見えてしまう。

 

 でも、浄化か、何かしていないと、気が治まらない。

 今日のあのボコられた件と言い、全くついていないぜ。

 一体どうしたら、呪いが消えるのかと聞きたい。

 遠い先祖や、呪いを掛けた張本人に、な。

 一時間もしない内に、魔女は戻ってきた。

 珍しく早い登場に、俺は少し首を傾げてしまう。

 手には、俺の水晶球がある。浄化したて。

 終わったのなら、と手に取ろうとすると。 

 魔女はもう片方の手で、フリップを取り出し、そこに素早く文字を書いて見せた。

 これは、魔女なりのコミュニケーション……のようだ。 

 ああちなみに。

 基本的にこの、無口な魔女は、こうやって人とコミュニケーションをとる。

 「……。」

 「何々?浄化はしたが、最近は特に力の減少が著しい。さらには、年々弱っているような気がするし、何か起こるかもしれない。気をつけるべし……か。一体どういうこと?これよりも、まずいことが起きるかもしれない?」

 「……。」

 書いてあることを読み上げ。

 そこから伺い知れる俺の未来を言ってみると、魔女はまた無言で頷いた。

 俺は、また今日のようなことが起きるのかと思うと、頭が痛くなる。

 とほほ(泣)。

 頭を押さえつつ、軽く涙目になった。


 で、その言葉が意味することは、すぐに分かったよ、この後にね。

 朝よりも肩身が狭くなった感じになって家に帰るなら。

 「?」

 だが、いつもより静かな家が、やけに気になってしまう。

 幼馴染が勝手に来る場合もあるが。

 そういうのは例外で、今不審なことに、親父も母親もいないのだ。

 夕暮れを過ぎ、夜の帳が降りるこの頃には、確実にいるはずなのだ。

 それがいないとなると、気になってしょうがない。

 急いで家に入ると、その理由が分かった。

 置手紙が1つ、玄関のすぐ側に置いてあった。

 親父の字で、何かが書かれてある。手に取り、俺はそれを読んだ。

 以下、その内容。


 この手紙を見る頃には、私は遠い所(注意!別荘)にいるだろう。

 せめて、お前にはこれを言っておこうと思い、ここに書き記す。

 私たちの一族は、昔とある猫の神様に呪われていて、代々不幸な目にあっていた。

 その呪いは7代目、つまりお前の代まで続くのだそうだ。

 時が来てしまう。猫神の呪いは、お前に最大の不幸をもたらさんとするだろう。

 だから……。

 子作りに励め!(キランッ!!)。

 8代目を作れば、お前は、私たち一族は救われるのだ!!(どーん!!)。

 

 以上。

 ……。

 をい!

 何だよこの手紙!何だよこの内容!何だよ、キランって!!!

 帰ってきて早々、これだよ!!一体どういうことなんだよ!!

 何猫神って!!

 初耳なことが沢山で、俺は怒りに任せて。

 その親父の遺言(?)の手紙を床に叩きつけてしまった。

  

 まさか、呪いの原因が、猫の神様だったとは思いにもよらなかった。

 よりにもよって、何で神様が俺たちを呪うのさ(泣)。

 泣きたくなってきた。あ、いや、もう涙が出ていたよ。

 しかも、その呪いを解く方法が、子供を作れだとのたまうか!!

 子供を作る……。作るとは……。

 

 うぃぃぃぃんと、ウィキ!頭が動く。

 えーえー、てすてす。

 『子供を作る』ためには!

 『女の子とイチャイチャ、キャッキャウフフ』しなくてはならない!

 『女の子とイチャイチャ、キャッキャウフフ』するためには!

 『女の子と結婚』しなくてはならない!

 『女の子と結婚する』ためには!

 まず女の子と付き合わなくてはならない。


 ……。

 ……。

 ……。

 をぉぉぉぉい!!!!

 ロジックの果てに、この俺に、どうしろと?!

 許婚でもいるっていう設定で。

 もう高校3年生だから、さっさと結婚しろとかいう意味か?!

 あるいは、空から女の子が降ってきて、俺と付き合いゴールイン?!

 または……っとここから先は、あまり言えないや……。

 とにかく、女の子と付き合うにしろ、俺には何ら脈がない!!

 こう気づいたら、俺は愕然となってしまう。

 膝は立つ力を失い、俺はそのまま玄関の床に崩れてしまった。

 その瞬間、ぱっと目の前が明るくなった。

 誰かがいて、電気を点けた?いや、それはない。

 今この家にいるのは、先ほど帰ってきた俺だけなのだから。

 では、いわゆる超常現象か?

 顔を上げれば、そこには眩い光を放つ〝光源〟があった。

 目を凝らしてよく見れば、神々しい輝きの中に、女の子の姿を見ることができた。

 まさか、そういうシチュエーションか?!

 そうか?!そうに違いない!!

 この子が天から降りてきて、俺と結婚し、そして猫神の呪いが解かれるという。

 さてその。

 溢れる光はやがて収束していく。

 その女の子の姿がはっきりとなると。

 その場にいたのは、深く黒い髪と、琥珀の瞳をした……中学生?

 いやもっと幼いような?少女がいた。

 ああ、特筆すべき点は、猫の耳がその頭に生えていることだ。

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