第4話 ほっとけない【青木くん視点】
◇◇◇
学校では、あまり目立たないようにしている俺だが、流石に見逃せなかった。
体調不良そうな鈴木さん。
いつもより、言動が不安定でぼーっとしているようだ。
風邪かな。そう思った時、寒い中ずーっと外から美容室で働く俺を見ているのが間違いなく原因だろうと、確信した。
「保健室に行こう」
そう鈴木さんに声をかけるサッカー部エースの高木。さりげなく、鈴木さんの細い腰に触れている。鈴木さんの親友っぽい子は「紗枝が……紗枝が……」狼狽しているし、先生もしばらく来ないだろう。
あー。どうしよう。目立ちたくない。
だけど、ほっとけない。
クラスでそんなに会話をしたこともない俺が、鈴木さんを助けても大丈夫だろうかと悩んだが。
鈴木さんにとっては毎日見慣れている俺だから、別に良いかと結論づけた。
それに、しゃがみ混んでいる鈴木さんは本当にしんどそうである。
「ちょっと失礼」
そういって、俺は膝の裏に手をいれて、腕に力をいれて鈴木さんを持ち上げる。小柄なだけあって軽い。スカートもめくれないように我ながら上手に鈴木さんを持てているような気がする。鈴木さんの親友の子に、「先生に、保健室へ連れていきますと伝えておいて。あとで取りにくるから鈴木さんの荷物をまとめておいてくれると助かる」と指示をする。
鈴木さんは、熱も出ているようで身体が熱い。顔も赤く辛そうだ。
はぁ。自分が原因なこともあり、鈴木さんが可哀そうになってくる。
また、美容室に来いよと言ったけど、あんな毎日木枯らし吹く日も、雨降る日も傘さしながら、俺を見に来るなんて、まさか思わないだろ、フツー。かといって、お客さんじゃないのに、店にいれるのも俺の立場では無理だし、と俺は悩む。失礼がなく、どうにか伝えられないだろうか。
保健室にいくと、先生や他の生徒もいないようだ。
とりあえず、一番奥側のベッドに横に置かせる。スカートが少しめくれて白い太ももが少し露わになってしまい慌てて、掛布団で隠してやる。
なんで、俺がこんなに慌てなきゃいけないんだ、と思ったが、異性の取り扱いはきちんとしなければならない。どんな噂がたつか分からないからである。保健室の先生を呼ぼうと、席をはずそうとすると、鈴木さんの小さな手が俺のシャツをひっぱってくる。
後ろをむくと、苦悶の表情を浮かべ不安そうにしている鈴木さんがいた。無意識で掴んだのだろうか。
「ゼェ、ハァ......」苦しそうである。なので、俺はその姿勢のまま停止する。振りほどくこともできたけど、そのままでも良い気がした。鈴木さんの寝息が本格的になった所で、手持ちのハンカチを水道で冷やして熱いおでこにのせてあげる。先ほどより、鈴木さんも落ち着いてきたのかスヤスヤ寝ている。
保健室の先生も来たので教室に戻ると、鬼の形相のサッカー部エースのなんだっけかが、こちらを睨んでいる。
授業が始まったので、俺は授業に集中した。
「なぁ、おめぇ、邪魔しやがったな」
そうえっと、なんだっけかな。名前。
「高木だ。いい加減、クラスメイトの名前ぐらい覚えろ」
好きでもないことを覚えることに、脳みそは使わないことにしているから。
「俺が―――あいつ狙っているの知っているよな」そう牽制されて、若干困っていると鈴木さんの親友さんが、氷点下の瞳で「じゃあ、紗枝が青木くん狙っているのは知っているかな」と2オクターブくらい低い声で呟いた。思ったより、強そうな子である。鈴木さんの親友。でも、クラス中が聞き耳立てているけど大丈夫なのだろうか。
鈴木さんのいない場所で、鈴木さんが俺に告白している風になってしまっている。いいのだろうか……?
最後の授業が終わり、俺はまとめてあった鈴木さんの荷物を受け取って、保健室へ向かった。「あぁ、青木くん彼女、まだすやすや眠っているわ。何かあったら伝えるわよ」と言われて少し悩む。
「じゃあ、彼女にゆっくり休め。美容室に来るなら応相談......あと、一緒に下校するのは可だとお伝えください」
俺を見たいなら、別に好きなだけ見たら良いと思う。
鈴木さんの場合は、本当見ているだけなので、害もない。
でも、これから寒くなるのに、外で長時間突っ立って、俺の観察なんて不毛すぎる。
だから、一緒に下校するのは可能と付け加えた。正直、何を話せば良いか分からないが、少なくとも授業をおろそかにして俺を観察したり、健康をないがしろにして寒空の中俺を観察するより、健康に良いだろうし。
まっすぐな視線で、鈴木さんが俺をみるから―――、俺だって授業や惰眠に集中できないし、仕事中も集中できない。っていうか、見られてばかりもどうかと思う。
はぁ、視線くらい余裕かと思っていたんだけどな。
昔、モデルをやっていたこともあるため、視線が集中するのは慣れている。中学校でもモテていただけあって、そういった視線を受けることが多々あった。
だけど、何て言うんだろう。鈴木さんの視線は、イヤじゃない。濁っていないというか、俺に何かを要求するようなソレがないのだ。だからか不快じゃないんだ。
それに――青木は自分を冷静に分析する。見られるだけじゃない、話してみたい。もっと外見以外の自分を知ってもらいたいし、鈴木さんのことを知りたい。
「こういう感情ってなんていうんだろうな」そう言いながら、夕焼け空を見上げる。
分からない。
見つめられても、嫌じゃないことだけは確か。
そして、見つめられると、何だかもどかしい気持ちになるのが不思議だ。
「はぁ、分かんねぇ」そう言いながら、青木は家へ帰り、アルバイト先の美容室へ向かう。
積極的に人に関わったことが最近ないから、同い年の異性への接し方なんて忘れてしまった。考えようとしたこともない。
一緒に下校といったものの、話題もない。美容室での出来事とか話せば良いのだろうか。
体調が悪くて蹲った鈴木さんを思い出す。そうとう体調が悪そうだった。
大丈夫かな。鈴木さん、あの感じだと明日は休みだろうなぁ。そう決めつけて、目を閉じる。あんまり、気にせずいこう。そう青木は自分に言い聞かせた。
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