異世界転生未遂から始まった冒険
@HighTaka
夜更けの国道
夜の国道と思ってくれ。
横断歩道は二百メートル先、家は道路をわたってすぐに見えてるコンビニの横の道をはいったボロアパートの二階。
そして車は一台もいない。コンビニの駐車場だってがらがらだ。
選択肢は二つ
一、まじめに横断歩道に行き、信号が変わるのを待ってわたってコンビニまで戻ってくる。
二、道路を突っ切って最短距離でコンビニにいく。
百人いたら九十五人は二を選ぶだろう。
もちろん俺もそうした。
そしたらね、けたたましくクラクションの音がして、二トントラックが突っ込んでくるんだよ。見晴らしは左右どっちも百メートル以上ある。それなのに、すぐそこまでブレーキを鳴らしながら。
無駄だと思ったけど走ってよけようとしたね。
でも、運動不足と持ち帰って片づける仕事でずっしり重い鞄がそうはさせてくれなかった。
死んだと思ったよ。あんまりだと思ったよ。俺が何したらこんなありえない死に方するんだよと思ったよ。
でも、いつまでたってもはねられた様子はない。トラックは嘘みたいにそこにぴったりとまっていた。ついでに俺も動けないので、時間が止まっているのだろうかと思った。死ぬ前にこういうことがあるのかと。
でもそれは間違いだった。
コンビニのほうから一人の警官がやってくる。顔はよく見えないが体格はまだ若い男性警官のようだ。警棒片手にかなりの速足でトラックのほうへ行く。
「誘拐と窃盗の現行犯です。おりてきなさい」
ひき逃げとかじゃなく?
ドアががちゃりとあいて、キャップを目深にかぶったジャージ姿がおりてきた。小柄で、胸とお尻が大きい。つまり女だ。
「どこの神ですか? ここの神と合意の上でのことですか」
女は無言で首をふった。
「くりかえしますが、あなたはこの人を誘拐しようとし、それによってここのリソースを大量に盗み出そうとしました。罰則はご存じですか」
「担当してる世界をとりあげられて、別世界で百年間、やられ役の邪神勤務」
女は投げやりにそういうのだけど、さっきから俺がついていけてない。
「わかっててなぜやるのか理解に苦しみますね。おや、来たようだ」
警官の見る方向にはふうふういいながら太ったからだをゆさぶってこっちにやってくるハゲのおっさん。
「大家さん? 」
うちのアパートのいろいろうるさい大家だ。でも、ちょっと様子が違う。
「いやいや、体かりとるだけだがね。それにしても不摂生な人だな」
大家さんはそういって見たこともない笑顔を見せた。仏頂面でないので新鮮だ。
「ほいでこの神がうちの店子をトラックで跳ねて自分とこに拉致ろうとしたひとかい」
やっぱ中身は違うのかな。
「どうします? 簡単なのは罰則適用、この人は忘れてもらって今まで通りにくらしてもらうというところですが」
「いやいや、まずは事情を聞いてみましょう。なんでこんなアホなことを? 」
「どっかのアホがうちにゴミすてていきやがったんだよ。おかげでめちゃくちゃさ。自分じゃどうにもできないし、警察は頼りにならないし、もう限界だし、景気のいいあんたのとこから借りてもばちはあたるまいと思ってね」
「ゴミというと魔王/エントロピー/混沌かね」
重なって聞こえる。大家さんの声帯どうなってんだ。
「そうさ、あんたの世界にゃ無縁のものさ」
「とんでもない、うちの人間たちは全部そうだぞ。だから他所じゃ魔王でもうちじゃ凡人なだけだ。もし、うちの人間を拉致しておだてて魔王/エントロピー/混沌討伐をやらせるならうまくいくだろうよ。毒を猛毒で退治しているだけだ」
「それでもあたしんとこには必要だったんだ。こうなったら没収でもなんでもしておくれ。あれをなんとかできるなら、あの世界の神はあたしじゃなくてもいい」
「ふむ、同情に値する点はありますね」
大家さんは俺を見た。
「一つ、ここは当人まじえて示談といきましょう」
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