EP69.勇者が姫様に告白を…?

 次の日の話になる。


 俺だ、江波戸蓮えばとれんだ。

 実を言うと今、非常にまずい状況になっている…






 今日も一緒に帰ろうと、白河小夜しらかわさよをSHR《ショートホームルーム》が終わってから誘ったんだが…


『今日は用事があるので、先に帰って頂けると助かります。恐らく17時までには帰ってこれるかと思います』


 と言われたので、少しだけ暇つぶししてから帰ろうとしていた。


 まずは久しぶりに図書室にやって来た。

 なにやら、新学期になって新しく本が入ったらしい。

 それが気になり、興味の引かれるものがあれば借りようと思っている。


 思ったよりもかなり多く新しく本が仕入れられていて、30分ほど時間が潰れてしまった。

 まあ、興味の引かれる本はそこそこあってある程度借りることが出来たので、個人的には満足である。


 しかし、この後スーパーに寄らなければならないからそろそろ帰らないとまずいな…

 でもな、新学期になっても毎日行ってる正門玄関裏の花壇へ水やりには、俺のポリシー的に行かなければならないんだよな…

 てなわけでやりに来たぞ〜花たちよ。


 如雨露じょうろに水を入れ、花壇へゆっくりかける。

 相変わらずかなり広い花壇なので、水やりに少し時間がかかってしまうのはあれだな。


「ごめん!待たせちゃったかな?」


 ん?

 何やら聞いたことのある声だな…まあ、ここでってことは告白なんだろうな。


 色恋話に花を咲かせおって…と人のことを言えないことを考えていた俺だったが、次の声を聞いた瞬間固まってしまった。


「いえ、大丈夫ですよ」


 …………は?

 小夜の声だ…用事ってこれの事だったのか…

 これまたEP40らへんのデジャヴを感じるなあ…


 ん?てか男の方って聞いたことのある声だったよな…なんだか嫌な予感がする。

 俺は恐る恐る振り向いた。


「白河さん、さっそく本題に入っていいかな?」


 爽やかイケメンスマイルで小夜に微笑む学園の「勇者」様、若林勇翔わかばやしゆうとの顔を見て、俺は盛大に顔が引き攣った。








 以上が俺が非常にまずい状況になっている経緯だ。


 こいつ…昨日とて今日とて小夜に無駄に突っかかると思ったら…

 あ、俺は別にストーカーじゃないからな?好きな子をチラ見して心躍らせるただの気持ち悪い男だからな?


 じゃねえよ!全くこいつは…去年の失態をまた犯すつもりか…

 まあ、実際こいつは去年何もしてないが…俺は苛立ちを抑えることは出来なかった。


「はい、大丈夫ですよ。なんでしょうか?」


 小夜は絶対俺のことに気付いてるはずだと思うが…俺は気づかなかった。

 ちなみに、花壇は正門玄関裏の壁から横向きになっていてるため、俺は正門玄関を背に水やりをしていたことになる。

 告白がここなら言って欲しかったものだ…今は無駄に動いてムードをぶち壊しに出来ないし、完全に身動きが取れない。


「白河さん。去年告白した時も、今もずっとあなたのことが好きでした。俺と付き合ってください!」


 勇翔が顔を下げて手を差し出す。

 ボイスもイケメンなので普通の女ならポイポイ落ちそうなところがどこかムカついてしまう。


「申し訳ありません。断らせていただきます…」


 しかし、小夜はその手を取らなかった。

 その時俺に絶大なる安心感が身を包んだ…よかった…


「そっか…理由を聞いていいかな?」

「それはですね…」


 小夜は急にモジモジとしだして言いずらそうにしている。

 しかし、直ぐにその言葉は小夜の口から発せられた。




 ───好きな人が…いるんです。





 ………………は? 

 え、は?小夜に…好きな人…!?


「そうなんだ…わかった。ごめんね、去年に引き続いて」


 勇翔は落ち着いているが、俺は俯いてもうどうすればいいか分からなくなっていた。

 小夜に好きな人…誰なんだ…そんな話、今まで聞いたことがない…


「いえ、大丈夫です。こちらこそすみません」

「うん。じゃあまた明日ね」

「はい。さようなら」


 するとひとつの足音がして直に遠のいていった、恐らく勇翔が姿を消したのだろう。

 そして、もうひとつの足音が鳴り響き始めた。


 その足音は徐々にこちらに近づいてきたが、俺は顔をあげることが出来ずにいた。

 そしてひと組の足が見えたと思うと、上から声がかけられる。


「帰りましょうか。蓮さん」

「………………おう」


 俺は無言で立ち上がって如雨露を直す。

 小夜の顔を、俺は見ることが出来なかった。


「蓮さん」

「…なんだ?」

「先程のですけど、私は他に好きな人は居ませんから安心してください」

「!?」


 俺は目を見開いて小夜を見る。

 小夜は苦笑して、俺を見ていた。

 

「じゃあ、行きましょうか。それで、昨日話し損ねていた三連休の予定ですけど、どういたしましょう?」

「お、おう。考えてたんだが、遊園地とかどうだ?最近少し面白みがなくてな…」

「いいですね。行きましょうか」

「よし、決まりだ」


 平静を装ってはいるが、好きな人がいないことに対してさっきより大きい安心感と、逆にショックの気持ちが頭の中で溢れていた。

 はあ…やっぱり脈ナシなのかねえ…


「(…やはり気づいてないみたいですね)」

「何か言ったか?」

「いえ、なにも?」

「そうか?」


 何か聞こえたので聞いたんだが、小夜は微笑んでしらばっくれるだけだった…なんなんだろうな、一体。

 それはともかく…はあ、最近小夜で俺の心が忙しいよ…

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