EP50.姫やみんなのお料理教室

 俺だ、江波戸蓮えばとれんだ。


 三月はあと少しだけ続く。

 つまり、双子の姉の江波戸凛えばとりんと愛しの妹の江波戸瑠愛えばとるあはまだ滞在しているという訳だ。


 で、今はベランダでコーヒーを飲んでたんだが、妹の瑠愛の方から話があるらしい。

 なんか相談したいことがあるとか何とか。


 とりあえずコーヒーを一口。

 落ち着いた口調を意識して、俺は口を開く。


「それで、相談したいことってなんだ?」

「うん。あのね…」


 瑠愛は少しだけモジモジとしている、大変可愛らしい。

 深呼吸をして、直に息を吸い込んだ。


「料理を教えて欲しいの!」

「………」

「…兄さん?」

「…ああ、すまん。突然どうしたんだ?」


 急に料理を教えて欲しいと言われたもんでな、少しビックリしてしまった。

 まあ、容易いことなんだが理由は知っておきたい。


「将来目指している高校があって、一人暮らしする予定だから今のうちに料理出来るようになっておきたいの」


 いい子か…あんたいい子か…

 ちょっと涙ちょちょ切れてきたわ。

 今の時点で進路決まってるとか…やばいな、自慢で理想の妹すぎるぞ!俺の妹!


「そういう事ならいいぞ。でも、なんで俺に?」

「春休みが始まってすぐこっちに来たから、母さんには頼めなかったんだけど…兄さんがすっごく料理上手だから…と思って」

「そういうことか。そういうことなら容易い御用だ。けど、明日からでいいか?今日はもうさすがに時間が無いからな」

「うん。わかった」


 そんなこんなで、瑠愛と明日に料理を教える約束をした。

 こうなったら徹底的にやってやるぜ…我が愛しの瑠愛のためにな。


 ちなみに、この後聞いたんだが何故か凛と白河小夜しらかわさよも参加することになったんだが…こりゃ大作業になるかもな。







 そして次の日。


 とりあえず俺は一回、三人ともスーパーに連れて行って買い物のコツを伝授してやった。


 買い物が終わった後、部屋に帰ってきて材料と器具を並べる。

 全員で手を洗ってエプロンを装着した、で、瑠愛は俺を殺しに来てるらしい。


 今回作るのはカレーだ。

 簡単だし教えやすいしで、最初はここからが定番だと思うわけだ。


「さて、今回作るのは見ての通りカレーだ。四人分だからそこそこ多くなるし、役割分担で作っていこう」

「「「お〜!!!」」」


 よし、気合十分みたいだ。

 今はまだ15時半をすぎた頃なので、失敗したとしても早めにはできるだろう。


「まずは野菜を洗って皮を剥く。ピーラーだと分厚く剥きすぎて少しもったいないから、包丁で剥くぞ」

「こっまっか!」


 凛が突っ込んでくるが、料理というのは大雑把ではダメだと思うのは俺だけか?

 いやまあ、聞いた話によると1番大事なのは想いらしいけど。


「やるからには徹底にやるのが昔からの俺のモットーだ。異論は認めない。それに、例えばリンゴとかを食べる時とか量が多い方が良いだろ?」

「なるほど!あったまいいね!」


 どこが頭いいのか分からないが、とりあえず説得は成功した。

 成功したはいいんだけどな…


「小夜!包丁を逆手持ちすんな!あと先に野菜洗うっつったろ!?」

「え!?あ、すみません…」


 料理する時包丁を逆手持ちする人初めて見たんだけど…え?何?殺人現場?

 それはそうとてこっちはというと…


「瑠愛も瑠愛で先に包丁洗うのは目を瞑るとして、包丁の向き逆な!?それだと絶対怪我するからな!?」

「え?そうなの?」


 はあ…なんか早速不安になってきたなあ…

 俺はもう既に精神のHPがつきかけていたのだった。









 結論から言うと、結構酷くてかなり手こずった。


 小夜は包丁の使い方がとにかく危ない。

 猫の手を忘れていたり、切る時にやばいくらい振り上げるから怖かった。

 ただ、無駄に器用だから皮剥きとかサイズ調整とかは普通に上手かった。


 瑠愛は逆にとにかく不器用だった。

 切るサイズはバラバラ、皮剥きは指を切りかける…まだ使い方は安全だが、安全なだけで結構アウト。

 まあ怪我しなかったし可愛かったから良しとしよう。


 凛は何故かしらんが一番マシだった…が、大雑把すぎる。

 水の分量とか煮込む時間とか順番が目を離すとめちゃくちゃになりそうだった。

 まあ一番マシではあったけどな?


 てか、逆にみんな苦手分野バラッバラだからこれがなんとも…

 まあ、皆あらかた習得はしたと思うしあとは慣れかな、慣れ。



 みんなで手を合わす。

 目の前には、辛いもの苦手な瑠愛を気にかけて甘口のカレーが並んでいる。


 全員が全員味に不安を持つので、かなり強ばった空気がある。


「………」

「………」

「………」

「……普通に美味くね?」


 普通に美味かった。

 一応慣れてる俺が指導したにしても、カレーとしてはかなりレベルは高いと思う。


「よかった〜!」

「かなり苦労しましたね…」

「上手くできたならよかった。兄さん、ありがとう」

「ね。蓮ありがと〜」

「ありがとうございます。蓮さん」

「おう」


 さすがにそんな一気に感謝されるとむず痒さが頂点に達しそうだが、成功といったところか。


「よしそれじゃあ、明日はオムライスでも作るか?」

「「「……え?」」」


 まだ習ったばかりだし、慣れなきゃダメだろ?

 さてさて…残りの休日みっちり鍛えてやんよ…


 三人とも頬が引き攣ってたが、恐らく気の所為だな!うん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る