EP48.姫とお花見前のお昼

 俺こと江波戸蓮えばとれんは今、キッチンでサンドウィッチを作っていた。

 この後行く花見…まあピクニックだな、それのおつまみを用意しているのだ。


 サンドウィッチ用に薄くスライスされているパンを取り出して、ロースハムやら卵やら…他にはレタスやら何故かあったツナやらを盛り付ける。

 どんな調味料を使うか悩んで結構手こずったが、秘蔵のソースもパンの表面に軽く塗る。


 あとはレンジで軽く温めて温度のバランスを調整し、カゴに入れる。

 行く頃にはいい感じの温度になってそうだし、このまま放置しておく。


 次に服装選びだ、俺はここら辺は怠るつもりはない。


 ピクニックなのでラフな雰囲気を重視しようと、白無地のポロシャツの上に紺色のカマーベスト。

 そして、ボトムスに黒のスキニーパンツを履いてみた。

 …てか、ポロシャツを着るだけでだけでラフな服装に見え、話しかけやすくなるように思えるのは俺の気の所為だろうか。


 ワックスで髪をあげてメガネを装着、全体的にただ街を歩いている知的お兄さんに大変身だ。

 まあ、俺はいつも知的な雰囲気の服装にするんだが、この中性的な顔のせいでクール感に欠けてしまうのが悩みだったりする。


「兄さん、かっこいい…」

「うおっ…と、瑠愛か。ありがとうよ。てか、俺の事見えるんだな?」 

「だんだん慣れてきた」


 目の前に居る妹の江波戸瑠愛えばとるあの発言に、俺は目を見開かずには居られない。

 なん…だと…瑠愛が、俺を…?


「でもね、そんなすぐには分からないの。最初は気配だけ分かって、三度見くらいしてやっと見える程度だと思うよ」


 それでも、瑠愛の能力の良さには圧倒されてしまう。

 瑠愛はこう見えて能力が抜群に高く、何でもかんでもすっと飲み込むのだ。

 魔王様でさえも、未だに俺を気配でしかわからないのにな…


「瑠愛が…俺を…」

「兄さん…?なんで泣いてるの…?」

「…ああ、いや。別になんでもない」


 いけないいけない。

 俺は威厳を保つためにも、感動の涙を即座に拭った。








 暫くして、出発する時刻になった。


 先に外に出ている双子の姉、江波戸凛えばとりんを追うように、焦げ茶のチャッカブーツを履き、サンドウィッチをしっかりもってドアを開ける。

 すると、きょうだいじゃない顔が見えて、俺は言葉を失ってしまった。


 その顔の持ち主は白河小夜しらかわさよ、学園の姫で俺の隣人だ。

 俺が無言で首を傾げていると、凛がテンションを上げ始める。


「小夜ちゃんも連れてきちゃいました〜!!」

「こんにちは。私も御一緒させていただきますね?蓮さん?」

「お、おう…わかった…」


 俺が思ったことはひとつ。

 サンドウィッチ、足りんのかなあ…


 顔を見た瞬間といい今ついてくることを聞いた事といい、小夜を遠ざけようとした昔の俺では想像できないほどの考えである

 何がどうしたんだろうな、俺。


 ちなみにファッションチェックをさせてもらうと、小夜は白のワンピースに水色のカーディガン。

 足は黒のソックスにローファーを履いていた。


 小夜のイメージカラーはどれかと言うと何故か水色になるし、ゆったりとしていて春にピッタリ。

 それに加えてソックスにローファーという、年相応な服装は小夜には珍しいが、無性に似合っている。

 さすがに言葉にはしないけどな。


 で、凛は白のブラウスに赤のフレアスカート、そして小夜とは対照的にピンクのカーディガンを羽織っている。

 足はフレアスカートで途中までしか見えないが予想だと黒のニーハイに、茶色のレディースサンダルを履いている。

 …いや、性格はともかく見た目は知的な凛には似合ってるけどよ…色が初詣となんか、反対になってないか?


「小夜ちゃん水色の方がかなり似合うし、入れ替わってみました〜!」

「いやだから心読むなって」


 いつもいつも怖すぎるからやめてくれ、本当に。

 俺、そんなに顔に出やすいのか?


「出やすいよ?」

「…もう諦めるわ…」

「蓮さんもいい服装ですね。似合ってますよ」

「ああ…さんきゅ…」


 なんだかむず痒いな。

 そう思っていると、後ろからトコトコと小さな足音がしたので、恐らく特大の笑顔になって俺は振り返った。


 無論、その足音の正体は愛しの瑠愛である。

 彼女は白無地のシャツに緑色のオーバーオールスカート…ぐふっ…


 ああすまん、足はソックスなのか…?編み上げブーツでよく見えないがって可愛いな!

 少し小さめの女の子に見える服装がなんとも…もうこれ俺を殺しに来てるだろ…ありがとうございます!


 でもな?どうでもいいけどなんで全員インナーは白なの?

 テンションがおかしくなってきたのでそう心の中でツッコんで誤魔化していたんだが…しかし時すでに遅し。

 俺は無意識に瑠愛の頭を撫でてしまっていた。


 まだ出会って日が浅いから不味いかと思ったが、瑠愛は拒まずに…というか寧ろ気持ちよさそうにしている。

 …この子、本当に最高だわ。


「凛さん。蓮さんって相当に…」

「そうね〜、瑠愛と話せるようになって爆発したんじゃない?まあ、これまで10年くらいずっと我慢してたんだからそっとしてあげよ?瑠愛も満更じゃないみたいだし」

「…それもそうですね。蓮さんは頑張りましたし」


 後ろでなにか聞こえるが、今の俺には関係ない。

 この娘が居れば充分だ…兄妹だから血は繋がってるけどな。


 でも、ずっとここで立ち止まるのはアレなので俺は瑠愛を外に出し、ドアを施錠する。


「それじゃ出発しんこ〜!!」


 テンションの高い凛に苦笑しながらも、俺たちは近くの公園へ足を運んだ。

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