EP10.姫は受けて立つ
あの下らん口約束から、二週間が経った。
俺こと
さすがは俺、相変わらず優しい奴だ。
「ほらよ」
今日は''偶然''料理をする日だったから、俺は小夜の部屋に訪問してタッパーを渡した。
小夜はタッパーを両手で受け取り、微笑んで頭を下げてくる。
「
おいこら、言うなよ。
「毎日じゃねえ、''たまに''だ」
……真実を隠す?いや、訂正するよう、俺は咎めるように小夜にそう言って睨む。
その言い方、面倒臭がりな俺が小夜のために毎日料理してるみたいじゃねえか。
「あの日から二週間、
「………」
いやもうここカット、無かったことにしてくれ……頼むから。
俺こと
雑にタッパーを手渡すと、小夜は頭をぺこりと下げて感謝の言葉を口にしてくる。
ふん、いい気味である。
「そういえば再来週は期末考査ですが、江波戸さんは勉強していらっしゃるのですか?」
ふと気になったのか、首を傾げながら突然小夜がそう尋ねてきた。
え?少しの間の出来事を飛ばしただろ、だって?……気のせいだ。
で、早いもので今は11月中旬……そういえば、小夜の言う通りそろそろ期末考査だな。
俺は期末考査のことを思い出しながら、平然とした態度で質問に答える。
「んーや、意識してはしてないな。ベランダの時のように暇潰しで参考書を眺めているだけだ」
「してるじゃないですか」
だから''意識しては''って言っただろ。
話を聞いていない小夜にため息を吐きつつも、俺もふと気になって訊き返した。
「そういうお前はどうなんだよ。仮にでも学年一位なんだし、してるんだろうけどな」
というか、俺らの学校は一応進学校だから成績は良いに越したことはない。
しかし、たまに勉強せずに赤点ギリギリのやつが近くで笑いあってるんだよな。
……あいつらは大丈夫なのかね。
遠い目をしていると、小夜が頷いた。
「はい。前回のテスト範囲の最後から予想している範囲にかけての、集中した勉強なら」
「まあ、それが基本だわな」
難易度がかなり高い分、テスト前に勉強するつもりならそれくらいが基本のはずだ。
俺や、多分小夜みたいに常に勉強しているものは例外だがな。
まあ、俺は参考書や教科書を読むだけで、あまり書いたりはしてないんだが。
それで覚えていけてるのだから、その才能にだけは自分でも助かっている。
ちなみに、難易度が高い理由は科目ごとでテストを行っていて、分野は一括だからだ。
正直異質ではあると思うし更に難しくなっているが、私立だから仕方ないのかね?
「そういえば、ゴキが出てきて外に出てた時に煽るような事を言ってきてたよな」
詳しくはEP5をチェックだ。
「……よくその時のこと覚えていますね。もう1ヶ月半も前の話なのに……」
……煽ったことは別に否定しないのな。
だとしたら、なんとも癪に障る……
ぴくぴくとこめかみを震わせながらも、まだ冷静になって返答する。
「……記憶力だけは自信があるからな」
先程述べたとおり、その才能には助かっている……今も身に染みている。
さて、ふつふつと燃え上がるこの静かなる怒りを、どう冷ましてくれようか……
厨二病チックになってるが、まあ別に激しいことをしようとはしていない。
ただ……な?
俺は小夜の顔に指をさして、怖いであろう笑顔を浮かべて一つ宣言する。
「あれ、次のテスト絶対に抜かしてやるから覚悟しとけよ?一位を取ってやるよ……」
「そうですか。それでは、受けてたちましょう」
小夜が口角を片方だけ上げて眉を寄せる。
……いや、めっちゃノリノリですやん。
柄にもなく関西弁でツッコんでしまった。
……でもベランダでも思ったんだが、最近本当にこいつ表情増えてきたよな。
あの時は、大体微笑んでただけなのに。
そんなことを考えながら俺は別れの挨拶を無愛想に交わし、自分の部屋に戻った。
あれからまた三週間後……12月上旬で期末考査を終え、順位発表の日だ。
時というのは過ぎるのがなんとも早いものだなあ。
で、今回の俺はいつもより数倍くらいは勉強したつもりである。
時間が許す限り、テスト範囲を中心に参考書を読み漁ってやった。
……プラスして、筆記も行った。
読むだけで多少なりとも覚えるが、やはり書くよりは衰える。
いつもは最低限取っていたが……それ程、今回は本気なのだ。
そんなこんなで俺は、今日もぼっちで昼休みに張り出された順位表を見に行った。
……興味のなかった俺が見に行くのは、地味に初めてかもしれんが。
さてさて、順位と点数の程は……
【一位:江波戸 蓮 894】
お、やりい。
俺は満足気に、自分の順位と点数を眺め──ん?
そこで違和感を覚えた俺は、視線を少しだけ下に向けた。
【一位:白河 小夜 894】
………。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
まさかの事態に、俺は思わずかなりの大声で叫んでしまった。
マジッ……!?え、マジ?
え、同率……──ん?
「……あっ」
さすがにこんな大声だと、みんな俺の事を認識したらしい。
やっべ、すげえ恥ずかしいな……直後、俺は叫んだ後に後悔したのだった。
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