ほぼ存在しない俺を、学園の姫だけは見つける
さーど
第一章
その1 これが、姫様との始まりだ
EP1.姫は土砂降りの雨に佇む
……俺の名前は
貸賃マンションで一人暮らしをしている高校一年生で、日本中のどこにでも居る普通の男……ではないな。
一人暮らしをしている高校一年生ではあるが、俺は''ほぼ存在していない''男だ。
──うん?突然どういう意味だ、だって?
まあ慌てるな……これから説明しよう。
まず俺は、生まれつき影が薄い……それも''かなり''、だ。
これだけではその
中学の卒業アルバムの話だ。
普通は集合写真があるものだろう?あるにはあるが、そこに俺は
……そうだ、''二人''だ。
既に写っているはずなのに、勘違いされて合成されてしまっていたんだ。
まだ他に例があるから、簡潔に
俺は人とぶつかっても気付かれなくて、そのままお互いに謝罪もすることなく素通りすることがある。
既に席に座っているのに、その上に座られることもあった、挙句に、気づかれない。
……などなど。
その他にももっと例があるが、さすがにキリがないので今回はよしておこう。
で、''ほぼ存在しない''ことの論点としては、実はもう一つあるんだ。
そもそも、俺は生徒は
担任にさえ、用があって職員室で呼び出された時に、呼び出したくせに「誰だ?」と言われる程にな。
影が薄くても、さすがに先生は顔や名前は覚えるものだろう?
だが、覚えられない……理由はわからないが、印象がないとすぐ忘れるらしい。
……さて、もう十分説明したししっかりと俺の影の薄さはわかってもらえただろう。
そんな俺は、もちろん''ぼっち''だ。
まあ、別にぼっちはぼっちでいい。
人付き合いに気をつけなくていいし、物事には一人で集中できるしな。
……まあ、寂しくないのか?と訊かれたら、もちろん寂しくはあるんだが。
──ん?それなら気づかれるように声をかければいいだろう、だって?
言ってなかったな……叫べば別だが、普通に声をかけても気づかれないんだよ。
で、もし叫んだとして第一印象は最悪……人間関係が
ただ、もし友人関係になれたとしても、影が薄すぎて次に話す機会は訪れない。
だから、交流を持とうとしても最初から詰んでいるんだ。
……だから俺は、今日もぼっちで学園生活を送っていた。
そして今、ある
台風の
しかし、暴風警報がでてないが故に学校は休みじゃなかった。
いやふざけんなよ、って今でも叫びたい。
「──ん?」
足早に
この土砂降りの雨でずぶ濡れになっているのにもかかわらず、何もすることも無くただただ突っ立っている。
「………」
しかし、そんなこいつに俺は見覚えがあった。
その容姿は、濡れても変に形の変わらない、長く煌びやかな金色のストレートヘア。
この強風によって強く
そして、シミがひとつも見当たらなく、水滴越しにも透明感が際立っている白い肌。
雨で冷えたのか今は血色が悪くなっているが、いつもは健康的でとても柔らかそうだ。
で、水滴が落ちる長いまつ毛が生えた二重瞼の目と、それにおさめられた大きくて……例えるならサファイアのような
鼻筋は通っていて、唇は薄く、黄色い眉毛も細くて穏やかな形をしている。
ハーフだと有名で、あの髪も地毛で特にカラコンもしていないらしい。
まあ、どっちも自然に
で、ハーフと納得出来る点はもう一つ。
すっとして雫の伝う綺麗な顎の顔に並ぶパーツが、日本人みたく柔らかい配置なところだ。
まあそれを含めていても、雰囲気はどちらかといえば''可愛い系''というよりか''綺麗系''な印象を受ける。
……そして、びしょ濡れにはなっているものの、俺と同じ学校の制服を着ていた。
見たことがあるのも当然な事だった。
あいつの名は
俺が通っている学校で[学園の「姫」]と呼ばれ敬われている女だ。
その
これだけでも充分えぐいが、まず学内一の成績優秀さ、それでいて運動神経抜群という
そして先程の顔立ちと、グラビア顔負けのとても女性らしい特徴を強調させたプロポーション。
名前も女の子らしく、立ち振る舞いも凛としていてお
かつ、男を寄せ付けない微笑みを振りまき妙な
容姿端麗、文武両道、品行方正……こういうやつだが、俺はそいつになんか興味無い。
ただの
……ん?興味を持たないなんて、お前は本当に男なのか……だって?
いや、前提を考えてくれよ。
仮に興味を持ったところで、ほぼ存在しない俺が接点をもてると思うか?
あるわけがないね。
もう一つ前提として、先程述べた通りあいつは男を寄せ付けないんだしな。
……それに、この俺がそういう色恋沙汰になんて興味を持っても仕方がないだろう。
「………」
……が。
さすがに土砂降りの中立ち尽くしているその姿は俺としては目に悪く、放っておくのはとてもじゃないが目覚めが悪い。
さっき言った通り声をかけても気づかれないだろうし……幸い、今は雨具も装備中だ。
今でも頭上で煽られる、黒色の傘……こいつくらい、
弱々しくぶら下がっている手にその傘を押し付け、俺は走った。
……まあ、どうせ俺の存在なんて気づかれちゃあいない。
その傘も急に落ちてきた傘だと思うだろうし、今後こいつと関わることは……一生ないだろう。
……そう思ってたんだけどな、その時は。
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