3章-4
先陣を切った男が手を伸ばしてアリサに掴みかかろうとするが、彼女はその場で飛び上がる。
「なっ! 飛ん--ぐぇっ!?」
先頭の男を踏み台にして更に跳躍したアリサは、男達の背後に回ると近くにいた二人の男の肩に触れる。
「「シビビビビビビ!」」
アリサに触れられた男達は体を震わせながら叫び声を上げ、気絶してしまう。
「これで三人だ」
気絶させた男の内一人を手放したアリサは、掴んだままだったもう一人の男を残った男達に向けて投げつける。
三人の内、一人はすぐさま反応して飛んできた男を避ける事ができたが、残りの二人は男に圧し潰されるように地面に倒れこむ。
「大の男を投げ飛ばした!? このアマ!」
唯一その場に立っていた男がアリサに向けて駆け出そうとするが、それよりも早くアリサが男に近づきその体に触れる。
その瞬間、今までの男達と同様に叫び声をあげて痙攣、気絶する。
「四人目……もう少し骨があると思っていたんだけどな」
「痛ぇな、クソ……」
アリサが投げ飛ばした男に潰されていた二人が上に乗っかっている男を押しのけた時、彼らの目の前には自分達の仲間を軒並み倒したアリサの姿があった。
「五人目と六人目だね」
そう言って男達の肩に躊躇なく手を置いた。
「「ギャアアアアアア!」」
数秒の間、痙攣して叫び声を上げ続ける男達。
アリサが手を離した事で、ようやく苦痛から解放された彼らは地面に倒れ伏す。
「す、凄い……」
「これで全員かな? さあ、お爺さんの鞄を持って帰ろうか」
アリサが鞄に手を掛けようとした時、周囲の建物の扉が開いて先程の倍以上の人数の男達が現れる。
チンピラじみた外見の彼らは皆、一様に殺気立っていた。
「……まだいるのか。まあ、何人いようと結果は変わらないけど」
「ここからが本当の勝負だ! 俺達に喧嘩を売った事を後悔させて――」
「いえ、ここまでです」
アリサが男達に相対したその時、僕達の背後から声がする。
後ろを振り向くと、そこにいたのは僕が予想もしていない人だった。
「レイ……仁良の先生、ここまでってどういう事ですか?」
怜悧先生はアリサの質問に答える事なく、僕達の元まで歩く。
「喧嘩の真似事はここまでだと言っているんです。大人しく自分の家に帰りなさい」
「何だと! この女に落とし前つけさせないと腹の虫が収まらねえ!」
「ボクの事なら心配しないでよ、こんな奴らすぐに倒せるから」
男たちはおろかアリサまで突然現れた先生に対し異議を唱え始める。
……前から思っていたけど血の気が多い所があるよな、アリサ。
先生はアリサと男達の間に割り込みながらこちらに話しかける
「仁良君、それにアリサさんでしたか、ここは大人に任せてください」
「任せろって言ったって……」
「大人には大人のやり方があるんですよ」
アリサを諭した先生は男達に向かって声をかける。
「さて、皆さん。盗んだ物をこちらに渡し、大人しく帰ったほうが身のためですよ」
「なにを言っている? こっちにはそっちの倍以上の人数がいるんだぞ」
男たちは先生の言う事に耳を貸そうとせず今にも襲い掛かってきそうな様子だ……アリサも飛び出そうとしているがその腕を僕が掴んで抑えている。
「……それじゃあ、どうすればこちらの言うことを聞いてくれますか? あまり我儘を言われても、私にできる事は限られていますよ?」
「どうもこうも、お前ら全員に落とし前をつけさせてやるに決まっている!」
殺気立っている男達に対して、先生は臆する事なく話を続けていく。
……見た目によらずかなり肝が据わっているな、先生。
「馬鹿な真似を……もう少し賢くなる事はできないのでしょうか」
「どうやら痛い目をみないとわかんねえようだな!」
男の一人が先生の腕を掴もうとする、しかしその手は先生によって振り払われる。
「……痛い目見ねえとわからないのは、どっちだろうなあ!」
「先生!?」
先生の口調が、今までの穏やかなそれとは打って変わり荒々しい言葉遣いになる。
「お、俺達がそんなはったりでビビると思ってんのか! 無駄に決まってんだろ!」
「無駄かどうか試してみろよ、お前らの遅いパンチなんて当たる訳ないけどな!」
男達が殴りかかってくるが先生は悉く最小限の動きで華麗に躱して男達を煽る。
「……そろそろ時間か」
暫く男達の攻撃を躱しながら男達を煽り続けていた先生が、腕時計を見て呟く。
「何を言ってるんだ、いい加減に――」
「馬鹿正直に喧嘩する訳無いだろ? だから賢くなれと言ったんだ」
激昂する男達の言葉を先生が遮ると同時に、路地裏の入り口からサイレンの音が聞こえ始める。
「け、警察だと!? ふざけやがって!」
「ふざけてねえよ、本気に決まってんだろ。ほら、早く逃げないと捕まっちまうぜ」
先生の言葉が言い終わる前に男達は慌てふためき始めて我先にと逃げ出していく。
「この野郎、覚えていやがれ!」
最後に残った男が捨て台詞を吐いて逃げ出していく。
流石の彼らも国家権力は怖かったらしい。
それにしても、気絶している仲間をきっちり回収していく辺りあんなチンピラでも仲間意識はあったのか……。
「……全員逃げたみたいですね」
「お前たち、無事じゃったか」
男達が逃げ去った後、路地の入口から爺さんが現れてこちらに向かって歩いてくる。
その手にはスマホが握られており、パトカーのブザー音が鳴り響いていた。
「先生? 警察を呼んだんじゃないんですか?」
「警察を呼んだなんて嘘ですよ。アリサさんが路地裏に入るのを見かけてそこのお爺さんに事情を聞いてから、すぐに後をつけたんです。警察を呼ぶ暇なんてありませんよ」
先生は事も無げにそう言い放つ。
「さあ、早くこんな所からはおさらばしましょうか」
驚いて呆然とする僕達に先生は、早くここから立ち去ろうと急かす。
……全然嘘をついているようにはみえなかった。
それにしても先ほどの先生は何だったのだろう?
今はいつもの様子に戻ったように見えるが……。
そうだ、アリサは大丈夫なのだろうか?
記憶を失っているとはいえ、仲間のおかしな様子を見せられたのは相当動揺したのではなかろうか?
「仁良、お爺さんを頼んだ。ボクは荷物を持つから」
そんな僕の考えとは裏腹に、アリサは冷静……というか何事も無かったかのように男達が忘れていった爺さんの鞄を拾いあげながら僕に指示をしてくる。
「準備ができたら行こう、あいつらが戻ってきたら面倒だ」
「わかったよ。爺さん、背負ってあげるから捕まって」
歩いてこちらに向かってきていたのだから必要かどうかは疑問だが、爺さんを背負うと僕達は路地裏の出口に向けて歩き出した。
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