第10話 夫への報告
家族三人での夕食が終わり、夫婦で食後のお茶を飲んでいた時の事である。
「あなた。緊急夫婦会議を希望します!」
マーレの発言に対し、今日も狩りで満足な成果を挙げられたので、上機嫌で麦酒を吞んでいたゼストは眉を
「おいおい。夫婦会議とは穏やかじゃないな。俺と離婚したくなったか? ただ生憎と、この国では夫婦の離婚は認められてないはずだが?」
ゼストは冗談めかしく反応する。実際、夫婦の離婚は相手に犯罪歴でも無い限り認められていなかった。当然、ゼストは前科なしである。それどころか、浮気の類も一切ない。この上なく美人な奥さんを嫁に頂いたので、浮気をしたら身を亡ぼすと肝に命じていた。実際、マーレの事を狙ってかは知らぬが、知人連中から夜のお遊びのお誘いが絶えなかったりするのだが……。
「もう、そんな事ではありません!」
マーレにこの手の冗談が通じた試しはない。普段なら通じないと分かっているのだが、今日のゼストは酔っているのかもしれなかった。
「じゃあ、一体どうしたんだ?」
「アルスの事です! アルスは…… アルスは…… もしかしたら、アルミラ様の生まれ変わりかもしれません」
そう発言した、マーレの瞳は
(ベッドの上でもこういう表情をしてくれれば、俺も興奮するんだが……)
そんな事を考えてしまうゼストは、やはり相当酔っているらしい。
「アルミラ様? アルミラ様って、三大英雄のか?」
「そうです。
三大英雄、それは古来から言い伝えられている英雄である。
武の神、ヘストス。 魔の神、アルミラ。
ヘストスは魔族との戦争で名を挙げ、武の神に。アルミラは、魔法の発案者として、魔の神に。マルコは、
「アルミラ様とは穏やかじゃないな。信者の人が聞いたら、相当ご立腹な発言になりかねないよ……。君も相当な信者だと思っていたけど、そう思う根拠はなんだ?」
「アルスは精霊の声が聴こえるらしいんです。しかも、精霊が言うにはアルスは全ての属性魔法が使えるとか。そんなのアルミラ様以来、居なかったんですよ!」
と、マーレは更に興奮しだす。
「それはそんなに凄いことなのか? 俺にはいまいち分からないんだが……」
ゼストのこの発言にキレたマーレのお説教の如き説明が暫く続いたのは言うまでもない。
「分かった。分かった。俺が悪かったから、そろそろ矛先を納めてくれ!」
ゼストはマーレのマシンガンのような舌攻撃に悲鳴を上げる。
「ただ、それだと確かにアルスがアルミラ様の生まれ変わりかもしれないという君の発言にもある程度納得出来る要素はあるな。だが、その場合アルスの扱いはどうなるんだ? 全ての属性魔法が使える存在だとしたら、王国が黙って居ないだろう。特に王都近くの教会の枢機卿が狙ってきそうな気もするな。王都に越すと決めたのは失敗だったか」
ゼストは自問自答するように発言する。
「分かってくれたんなら良いです! 確かにアルスがどの属性の魔法が使えるのか実際に確認出来次第、教会に登録をしに行かないといけないんです。実際はまだ暫くかかりそうなんですけど。近くに教会もないし、ちょっと遠出をしなければならないと思います。どうせなら、王都の教会に行って、父に手紙の返信を直接伝えるのはどうかと思いまして。それで良ければ、手紙の返信には近々顔を出すという文面に留めておこうかと思いますけど、いかがでしょうか?」
父からの手紙とは、先日届いた『王都で一緒に暮らさないか?』という内容が掛かれた手紙である。すでに、お世話になることは決めてあるものの、手紙の返信はまだなのであった。
「う~ん……。それだと今言った枢機卿の存在が不気味だな。奴は蛇みたくねちっこい奴だと聞いた事がある。アルスが目を付けられないと良いんだが……」
「そんな人が王都近くの教会に……」
「ああ。ただ、お義父さんへの返信はどうしようかと俺も思っていた。お世話になるのに手紙だけの返信では申し訳ないしな。枢機卿の存在はともかく、一度はお義父さんの所へ挨拶をしに行く必要はあるだろうな。王都への旅路となると、相当な距離でもあるし、なんなら馬車で行くか? その方が、君も安心だろう?」
「そうですね。馬車の荷台に乗りながら、アルスに色々な事も教えられますしね」
そんな時まで色々とやるのかよ!と、アルスの事が憐れに思うゼストであった。
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