叶音の成長

叶音が中学校1年生の夏のある日のことだ。学校から仕事中に連絡があって、できれば仕事終わりに学校に来てほしいと言う。叶音に何かあったのかと思い、今からでも迎えに行けます、というとそかまで急ぐことではない、という。先生が少し声を落としてそっと教えてくれた。


叶音が初経を迎えた。と


たまたま、その日が学校でよかった。

この後、僕は何をすればいいのか、まるで彼女を妊娠させてしまった彼氏のような慌てふためきようだった。いつか絶対に来るものだし、覚悟はしているつもりだったがなんとなく対応を後回し、後回しにしてきたツケが回ってきた。


叶音と三者面談のような形を先生がとってくれる、とのことだったので僕は久々に会社を早退させてもらうことにした。なにしろ、こんな重大な悩みを抱えたままでは気が散って気が散って仕事にならない。


「はぁ」


いつもより少し早く会社を出て、いつもより少し明るい空に向かってため息をついた。何か一つ、僕の手から叶音が離れていったような気がした。


「あの、すみません。鈴鹿叶音の父の鈴鹿葵です。吉川先生いらっしゃいますか?」

初めて職員玄関から学校に入り、少し緊張しながら、事務室に声をかける。

「鈴鹿さん、鈴鹿さん。ああ、面談でいらっしゃったんですね。ええと、吉川先生ですね。

…ああ、もうすぐ午後の学活が終わりますので先に会議室にご案内しますね」

トントン、と話は進み思った以上にすんなりと会議室に案内される。「ここでお待ちください」と言われた会議室は子供たちの教室に無理やり真っ白で無機質な長机を置いたような空間で、そのチグハグさが僕のこの不思議な感覚を益々大きなものにしていた。しばらくして、


コンコン

「失礼しまーす」

形だけの入室の挨拶をしながら白衣を着たはじめましての先生が入ってきた。

「あれ?まだ、吉川先生も叶音ちゃんも来てない?ああ、だから呼ばれたのか」

ぼそぼそ、とそんなことを言いながらその人は僕の目の前に座った。

「はじめまして。保健室の先生の河村と申します。今日はよろしくお願いします」

「鈴鹿叶音の父です。よろしくお願いします」

簡単に挨拶を交わすと、河村先生は机の上に肘を置き、ゲンドウポーズを決めて、言った。


「さて、鈴鹿さん、どうしましょうか?」


…どうしましょか?

どうしたらいいですか?

何したらいいんです?


「まあ、その対応が叶音ちゃんとお父さんだけでは心配だったんで今回は呼ばせていただいたんですけど」


その時の河村先生は救いの女神だった。







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架族 雛森 りず @RIS_7856

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