第5話 引っ越し
僕たちは、叶音が小学校に入るのに合わせて近くのファミリー向けアパートに引っ越した。叶音が、今までのお友達と離れたくないと言ったからだ。
「お父さん、見て見てー!」
今日は、叶音が待ちに待ったランドセルの受け取り日だった。朝イチで店まで取りに行き、今は背負い心地を堪能している。
「可愛いなー叶音」
叶音が選んだのはモカ色のお洒落なランドセルだった。女の子は赤、男の子は黒のランドセル、、、という固定概念が未だに抜けない僕はこんな色のランドセルがあってしかも叶音がこれを選んだのが意外だった。
「叶音、本当に一人で学校行けるか?お父さん心配だなあ」
「大丈夫!叶音、お友達いるから寂しくないもん」
こうやってだんだん親離れしていくのか、と内心傷つきながらも叶音の成長が嬉しかった。しかし、叶音が小学校でいじめにあったりしないか、事情が事情だけに心配ではあった。
「叶音、何か本当に困ったことがあったらこれを使うんだぞ」
「わー!これなーに?」
叶音に渡したのは可愛いピンぐらいしか入らなそうなケースだ。中には1万円が入っている。叶音は、毎日一緒に買い物に行っていたからこのお金の価値はわかるはずだ。
「叶音が本当に、本当に困った時に使うんだ。
だから、このお金のことはどんなに仲のいい子にも言っちゃいけないよ」
「わかった。叶音のお守りにする」
叶音は、この歳にしてはしっかりとしているし、女の子にしては物静かな方だ。安心して大丈夫だろう。
さあ、あともう少しで小学校生活が始まる。叶音の記憶はまだ戻らない。それも不安要素の一つではある。先生方にも一応伝えてあっても全てを知っていた幼稚園の先生の様な安心感はない。
「叶音。小学校生活楽しみだな!」
それでも僕が送り出してあげないと叶音は安心して進んでいけない。
「うんっ!」
大きく頷く叶音の頭を、僕はそっと撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます