同じ気持ち
クラスが違うから、昼休みと、放課後しかキミとは一緒にいられない。
昼休み、キミと校庭の片隅のベンチでお弁当を食べるのがどんなに幸せな時間か。キミは分かっているのかな?
キミの部活が終わるのを読書しながら待つのが私の日課。
体育館の明かりを確認しつつする読書ははっきり言ってあまり捗らない。
キミの部活があと5分終わるのが早ければ、そのキミの5分間は私のものになるのに。
でもキミは部活に夢中。
部活後、夕焼け空の下、キミは私の家の前までいつも送ってくれる。
二人で他愛もない話を延々としながら並んで道を歩く。キミが何を話しても、私はいつも楽しい。一つの議題について論じるのも興味深いよ。
でも、25分の帰り道はあっという間。まだ話足りないの。もっと一緒にいたいの。
あと5分でもいい。長く一緒にいたい。そう思っているのは私だけかな。
ほら。もう5分ほどで家に着いちゃうよ。
「どうした? 気分でも悪い?」
「ううん。大丈夫」
具合が悪いんじゃないんだよ。もうあと5分でさよならしないといけないのが寂しいんだよ。どうしてわかってくれないのかな?
「着いたね」
キミの言葉がまるで死刑宣告みたいに響く。私は悲しく思いながらキミの目を見つめることしかできない。
ああ。楽しい時間もこれでおしまい。また明日には会えるのにいつも思ってしまうの。まだまだ足りない。一緒にいたい。
「あと5分、いようかな」
キミがそう言った。
「!」
私は思わず笑顔になった。
「ははっ! そんな顔されたらこっちまで嬉しくなる」
キミはちょっと照れ臭そうに笑って言った。
5分だけ伸びたおしゃべりの時間。でも、5分なんてあっという間。だからたくさん話したいのに、あと5分と思うと、なかなか言葉が出てこないよ。
何か、何か言わなきゃ、終わっちゃう。
「えっと、5分って短いよね」
「そうだね」
「それでも一緒にいれる時間が延びるの、私、嬉しい」
恥ずかしい。でも言っちゃった。
「俺も嬉しいよ」
キミは顔を赤色に染めて本当に嬉しそうに笑ってくれた。
つないだままの手がさらに熱を持つ。
一日中一緒にいられたらいいのに。でも、そうなったら貴重な感じがしなくなってしまうかな。想像がつかないな。
そんなことを考えていると5分はすぐに経ってしまった。
キミと私は見つめ合う。キミの目もなんだか寂しそうだ。もしかして、同じ気持ちなのかな。
「あ、あと5分」
キミが遠慮勝ちに口にして、私は嬉しくてまた笑ってしまった。そんな私にキミも笑った。
あと5分を何回かその後も繰り返して、さすがにキミが帰るのが遅くなってしまうのが気になった。
「今日はもう本当にあと5分ね」
身を切る思いでそう私は言った。キミはちょっと悲しそうな顔をして、
「あ、もう8時近いんだ。……そうだね。残念だけど」
と言った。恋人つなぎをしていた手をキミが一本一本動かす。
「離れがたい?」
私の言葉に、
「当たり前だろ? 5分が永遠に続けばいいのにって思うよ」
とキミは真面目な顔で言った。
「よかった。同じ気持ちだったんだ」
「え?」
「私だけそう思ってるのかと思った」
「そんなこと。馬鹿だなあ」
キミは今日、一番優しい目をして私を見つめた。
「5分だね。また明日ね」
キミはそう言って、私を優しく抱き寄せて、おでこにキスをした。
「うん。また明日ね」
今生の別れみたいに思ってしまう。これじゃ遠距離恋愛とか私は絶対無理だな。
キミの後ろ姿を見送っていると、キミはこちらを振り返り、
「早く、家に入りなよ」
と言って、困った風に笑った。そんなキミに私はもう一度手を振った。
あと5分でも一緒にいたい。
キミが私と同じ気持ちだとわかった日。
私はキミが帰った寂しさは感じながらも幸せな気持ちになった。
了
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