今日は晴れてたんだけれどな。



 私は下駄箱で靴を履き替えて、昇降口を出ようとして、足を止めた。雨が降っていた。

 傘持ってきてないや。


 ぼんやり空を見つめ、私は途方に暮れていた。

 そんな私の脇を通り過ぎる男子が一人。四宮景しのみやけい君だった。同じクラスの私の好きな人だ。

 四宮君は傘持っているのだろうか。入れてもらえないかな。そう思った直後、四宮君が振り返った。


 え? 私の心、伝わったのかな?

 勝手にドキドキしてしまう。

 あれ、でも四宮君の視線、私に向いてない。私の後ろ?

「明日香!」

 四宮君の口が私でない女子の名前を紡ぐ。

「傘持ってないだろう? 俺のに入って行けよ」

 笹口明日香。彼女も私のクラスメイトだ。小柄で地味だけれど守ってあげたくなるような女の子。

 呼ばれた笹口さんは私の横を小走りで通り過ぎて、

「ありがとう!」

と言いながら、四宮君の隣に並んだ。

「馬鹿だなあ、明日香は。今日午後から雨って言ってたじゃないか」

「そうなの? 知らなかった~」


 二人が相合傘をしながら楽しそうに校門を出ていくのを私は呆然として見送った。

 親密そうだった。四宮君が女子生徒の下の名前を呼ぶのを初めて聞いた。付き合っているのかな。

 しとしとと降っていた雨は段々強くなって、まるで私の心の中みたい。


「あ~あ。笹口さん、いいなって思っていたんだけどなあ」

 後ろから男子の声が聞こえた。振り返ると、その男子と目が合った。確か、川上君だったかな。川上君は私と視線が合って、ばつが悪そうに視線をそらした。

「川上君は笹口さん狙いだったの? 私は四宮君が好きだったんだ。二人は付き合っているっぽいね」

 私が声をかけると、

「そっか、林さんは四宮が好きだったのか……」

 と川上君は同情するように声を和らげた。

 私たち二人はしばらくぼんやりと雨を見ていた。

 突然の雨で世界は涙色になってしまった。きっと川上君の世界もだろう。

 雨は一向に止む気配がない。




「俺、傘持ってるんだけど、林さん、入ってく?」

 川上君が言った。


                     了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る