011 一寸の虫にも五分の魂
秘本ちゃんクエスト、3つ全部クリアだぜ!
やっふー! マンマミーヤ!
「クエスト3つクリア? 2つじゃないっすか?」
全裸で寝そべって喜んでいる僕を尻目に、川で洗濯をしているトラ子がそんな疑問を投げかけた。
トラ子はいま、再び川に入水し服を洗っている。ついでに身も心も洗っている。
なんとコヤツ、銀髪ちゃんのオコボレを頂戴してちゃっかり自分の欲を満たしておったのだ。
詳細はアレなので省く。
なので罰と称して洗濯を命じた。実際には僕が自分のアレ汁塗れな服を洗いたくなかったからです。ありがとうトラ子。生活力皆無な僕を許しておくれ。
しかし異世界に来てから川しか入ってないな僕らは。もうね、異世界転生者は風呂ばっか作ってないで川を作ったほうがいいよ。体が洗えて洗濯ができて心も清められて治水も行える上に水車や水運に利用ができる。もはや川万能説まである。
冬? 知らんな。
川に対する熱い思いを夢想する僕にお構いなく、トラ子はバッサバッサと流れを掻き分け岸に上がってきた。
僕と同じくトラ子も全裸なのだが、ヤツには羞恥心というものが欠片も無い。
寝そべったままトラ子の裸体を下から舐めるように見上げる。
足首は細いがフトモモから尻にかけてムチッとした肉感的な肉置きをしている。腰はしっかりとクビレていて小さなおへそが可愛い。そしてその上には、普段は隠されている立派なふたつのメロンが揺れ、白日の下に晒されていた。
なお表現が誤解を招かないようにハッキリと言うが、トラ子の大きなおっぱいがポヨンポヨンしているという意味だ。決して川の冷水で冷やしたメロンを抱えている訳ではない。
でもここまで脱いでおいて、なぜ石のブレスレットと派手な羽飾りは付けたままなのだろう。まるでコスプレセクシービデオのナースキャップじゃないか。
いかんいかん。思考が脱線してしまった。クエストの件だ。
僕はトラ子に反論した。
「コスプレ感とおっぱいのポヨンポヨンが相まって、とてもムラムラしますぞ」
おいおいトラ子よ、急に何を言い出すんだ。お題はキッチリ3つとも達成したじゃないか。
「たぶんそれ、考えてる事と口に出してる事が逆になってるっすよ」
ええっ? しまった! あまりのストレートな色気に脳が混乱してしまった。お色気界のトリックアーティスト・トラ子。
ここは強引に誤魔化すしかない。
「逆だって? 言いがかりはよしてくれ。そもそも僕は、しっかりと最高にハイになって、5人ほどぶっ殺して、ダークエルフと同衾してダイナミック朝チュンを決めたじゃないか。僕にはちゃんとアリバイがあるんだ。見事な推理だが僕が犯人という証拠はあるのかい?」
「いやー、だってほら」
と言って僕の胸に顔を埋めて眠る銀髪ちゃんを指差した。
むむっ。痛いところを突かれた。
そうなのだ。実を言うと、僕は正気を取り戻してからずっとこの子に抱き付かれていた。なので、この子の正体をきちんと確認していなかったのだ。ちなみにその間僕はずっと寝っぱなしニートだった。
そのままトラ子は僕の傍までやってきて、「すぴーすぴー」と寝息をたてる銀髪ちゃんを強引に引っ剥がした。えいやとの掛け声と共に哀れ銀髪ちゃんは仰向けに転がされて、ゴチンと頭を石にぶつけて「ぷぎっ」と呻いた。
僕は銀髪ちゃんの顔を見た。
今更だが、ついに詳らかになる銀髪ちゃんのご尊顔。
サラサラと流れる銀髪、滑らかなチョコレート色の褐色の肌。これは既に見た。
顔の輪郭は、キレイな卵型をしているな。だがその真ん中を通る鼻筋は、かなりシュッとした、高い鷲鼻だ。魔女っぽくけっこう鋭く尖っている。
唇はぷっくりしていて可愛い。そしてその間からニョキっと犬歯が覗く。うーん、これは八重歯と言うには長すぎるぞ。有り体に言って牙?
意外にキリリとした眉毛、その上の額には小さな角が2本。つ、角ですか?
さて、重要なのは耳だ。笹のように細長い耳。そうそう、一瞬だったけどチラッと見えたんだよね、このエルフ耳。
でも長い耳の先端がグニャリとさがなく捻れている。あ、あれ?
動揺する僕をよそに、長い睫毛に縁取られた目がゆっくりと開かれていく。ツリ目がちでアーモンド型の目だ。瞳は猫のように縦に細長くなっている。そしてそんな瞳にピッタリの、キっツイ三白眼。えっナニ? 怒ってるの? 目付きが怖いよ。
こ、これは。整ってはいるのだが、随分と凶相だ。……きみ、エルフの割には個性的だね。あぁダークエルフだから? ちょっと署で詳しくお話を聞いちゃおうか――
「やっぱ、雌ゴブリンっすね」
トラ子が僕の現実逃避をぶった切った。
トラ子よ、トラ子さんよ! 僕も薄々はエルフと違うんじゃないかとは思っていたけど、もうちょっと現実逃避をさせておくれよい!
まさか異世界に来てまでパネルマジックに騙されるとは。こんな裏切りは西荻窪のボッタクリバー以上だ。初めてですよ、ここまで僕をコケにしたおバカさんは。
なんだか、普段は穏やかな心を持っている僕だが、激しい怒りによって何かが目覚めそうだ……!
【悲報】スウェーデン人を指名したはずがスゲェ原人が来た件【トラウマ】
ううっ、頭が! 封印されし暗黒の記憶が呼び出されてしまった。早くトラ子のパイオツカイデーで記憶の上書きをせねば。
だが口直しのためにトラ子を見れば、既に服を身に着けていた後だった。
残念。
トラ子はいそいそとゴブリンちゃんに服を着せている真っ最中だ。まあ和装の着付けなんぞ分からぬようで、前を合わせて帯で適当に縛っている。オウ、これで全裸は僕だけになってしまった。一挙にマイノリティ転落だ。
問題のゴブリンちゃんは寝起きのせいか、はたまた大事なモノを遺失した影響か、やや内股の姿勢でされるがままにぽやーっとしていた。
だが、僕と目が合うと驚いたようにその目を見開いた。そしてすぐさま僕めがけて突撃をかまして額の角を脇腹にグリグリ押し付けてきた。角が痛い。胴タックルの練習かな。
顔を上げたゴブリンちゃんが潤んだ瞳を上目遣いして語りかけてきた。
「あばバぁぅバッばあぅしゃばあぁバばっ!」
なるほど、分からん。教えてトラ子先生!
「コレなんて言ってるの?」
「いや~ちょっと何言ってるのか分かんないっすね」
「おい。さっきは分かるって言ってたじゃないか。まさかいい画を撮りたいが為にフカシこいたのか?」
「いや、そういう訳じゃないんですけど、なんていうか、ある程度なら分かるけど、カッコつけたというか」
「ほ~ん。じゃあ、あの時の『今のは現地の言葉っすね(キリッ)』も『なんか助けを求めていたっす(キリッ)』もカッコつけだった訳だ。ひゃ~、トラ子のウソツキ、悪女っ」
「ちょっ、止めてッ、恥ずいっすよ、それはズルい」
「『いい画が撮れるかもしれません。行きますか?(キリッ)』」
「そこは本気っすよ!」
僕らがギャーギャー言い合っていると、ゴブリンちゃんは少し不安そうな表情になってきた。そりゃそうかも知れない。周りはハゲタカのたかる死体だらけで、全裸のムキムキマッチョと異民族っぽい女に囲まれて、言葉が通じないんだからな。
そう考えるとちょっと可哀想なってきた。何とかしてあげねば。
「実際のところ、言葉はどれくらい分かるの?」
「海外旅行向けの英会話のテキストを一夜漬けした程度っすね。『さんきゅー、ちきんぷりーず、へるぷみー、ゆーあーそーほっと、さっくまいぷっしー』くらいなら余裕なんすけど」
「それ英会話を真面目に勉強してる人に怒られるから言っちゃダメだぞ」
お前は海外で何をする気なんだ。
その時、股間に挟んで持ち歩いていた秘本ちゃんがブルルっと震えた。
秘本ちゃんからの着信だ。
実はさっき秘本ちゃんを枕にして空を眺めている最中に、秘本ちゃんとお喋り出来ないか試していたのだ。どうやら秘本ちゃんはある程度なら自分の意思でぶるぶると出来るみたいなので、それを利用したら会話が可能なんじゃないかと思いついたからだ。
なんとその甲斐あって、多少ではあるが僕は彼女との意思の疎通に成功したのだった。まあ分かるのは『いえす、べいびー、かもん、さっくまいこっく』くらいだが。これぞまさにピロートーク。
ブルってる秘本ちゃんを軽くフリックして耳に近づける。しもしもー? すると秘本ちゃんは不意に表紙をピカピカッとさせて、顔を近づけていた僕はその光に目がチュウっとなってしまった。しまった、これは音声着信じゃなくて例の脳ハック通信(僕命名)の方だ。
すぐさま、秘本ちゃんのメッセージが僕の頭の中にヌルンっと入ってきた。まさに出会って3秒で挿入だ。何も間違ってはいない。
――ほほう。なるほど、えっ熊……? へぇ~、じゃあこっちが、前足? これはおててや……、それなら4本足で歩くんかい……?
「え? そんなん出来るんですか!?」
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