第23冊 肝試しへ
「変な泣き声?」
朝。授業が始まる前の空気が爽やかな教室、グレーテがまたぞろ謎の噂話を持ち込んできた。
「そうそうっ。二階の音楽室あるでしょ? 夜中に警備員のおじさんが、誰かがすすり泣いているのを聴いたんだって!」
「マジか。えらいベタなの来たわね…」
「?」
首をかしげているグレーテ。だが、メリーからすれば、そんな学校の怪談みたいな話は勝手知ったるといった感じだ。
「で、オチは? 幽霊でもいたわけ?」
「マリーちゃん、ドライすぎるよっ。それとね、幽霊はいなかったんだって! だって足があったんだもの。声を掛けようとしたら、逃げられたんだってさ」
「足…?」
なら犯人は実在する人間ということか。真夜中の学校に忍び込んでそんなことをするなんて、妙な趣味をお持ちなことで。いったいなんの目的があってそんなことを。
「相変わらずこの学校は変なヤツが多いわねぇ…」
『あなたも含めてね。けど人間の仕業なら、また詩片絡みかしら』
おいどういう意味よそれ。て、また詩片か。こんなにポンポン出てくるものなのかしら。
「ねぇねぇ、メリーちゃんも気になるみたいだし、調べにいかない!?」
「はぁ? どうしてアンタと…」
「やあやあ。面白そうな話しているねん。ボクも混ぜてよ」
グレーテと話していると、視界のど真ん中に、深青色の髪が急に割り込んできた。
「…誰よアンタ」
「おおい忘れちゃったのかい。この前会っただろう?」
『廊下で話した子じゃない? 確か、ジェミーの件を調べている時の…』
あー、思い出したかもしれない。なんかやたら生意気な態度な、男か女かわからないヤツか。
「そういえば、名乗りがまだだったねん。ボクの名前は―――」
「せ、生徒会長!?」
「そうともさ。ボクは生徒会長の―――」
「飛び級で三年生になった天才児、文武両道性別不明のミステリアスっ子…。あのキオ会長!?」
「……ありがとう、グレーテくん」
おいおい。自己紹介全部取られて、この生徒会長、涙目じゃないのよ。
「こ、こほん。ともかく! ご紹介の通り。ボクはキオ・ピアニス・ゼペット。この学園の生徒会長を務めている者だ。確かに飛び級だから、年齢は十三歳だけどねん」
「で? そんな優秀な生徒会長サマがなんの用よ」
「だから言ったろう。ボクも会長として、学園に現れる不審者の件は放っておけなくてね。その夜間調査に同行したいのさ」
言い方がいちいち堅苦しいわね。普通に肝試しについてきたいって話だろうに。
「まあ構わないけど。てか、そもそもアタシは行くって一言も」
「会長が来てくれるなんてさいっこう♪ ぜひ一緒に行きましょ!」
「はぁ…聞いちゃいないし…」
そんなわけで。夜の学校で集合する運びとなってしまった。会長特権で特別に校舎へ立ち入れるようにしてくれるらしい。ノリノリすぎる。
『校則違反と咎められなくて良かったわね、芽理』
「いやそういう問題じゃないでしょ。それより、また幽霊騒ぎってこの学校どうなってんのよ…」
二度目ともなるとさすがにしんどい。そうげんなりとする芽理であった。
その裏でふと、メリーはこう考えていた。
『まるで、誰かが裏で幽霊にまつわる
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