私のお節介なゴースト

ツナ缶

プロローグ

お節介なゴースト

「誰にも、見えなければいいな」


 笑って、そう言い放った。自身の言葉に何の非もない、間違ってなどいない。そう声色が雄弁に語る。


「……君はもうちょっと、自分に理解があると思っていたよ」


 語られた側、重たい声の主は、呆れたように頭に手をやった。首を振り、彼女の言葉を言外に否定する。それでも、その笑みは薄れない。

 答えは、変わらない。


「理解してるよ。自分を自分が一番理解してるって、自信を持って言えるわ」

「君の行動が、成果が、誰にも知られないなんておかしい」


 胸に手を当て誇らしげに語る彼女の目は、その強い否定の言葉を受けても少しも揺らがない。


「別に、知って欲しくてやってるわけじゃないし」

「君がよくても――」


 声を荒げようとした。だが、その熱は、彼女には届かない。

 笑っている、その笑顔が、他の答えを許さない。


「いいの。私がこれでいいって言ってるのだから、これでいいの。これ以外になんて、ないの」


 答えは変わらない。そのことがわかってしまっていた。どれだけ理屈を並べ、熱意をぶつけても。心は固定され、その答えから動くことはない。


「それにね」


 ようやく、少しだけ。本当に、ほんの少しだけ表情を陰らせて。


「こんな醜い姿、あなた以外に見られたくないもの」


 でも結局、その本心を隠し通したまま、また笑顔は浮かべられる。


「あなたにだって、見せたくはないんだけどね」


 そう、舌を出して、おどけてみせた。

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