名無しの僕は幸せの中で眠る
なすのいちばん
第1話 似てるけど、似てない
都会の路地裏、どの世界にも必ずある影の領域。
そこは僕の居場所、夜も朝も暗く湿っていて、寒い。
少なくとも彼女が、あのお姉さんが僕を連れて、帰るまでは。
寂しい、私はずっと一人でいる、学校も、会社も、私生活も。
「はぁ、自炊とかしてみたいなぁ」
独り言はいつも、家を出ると行ってきます、家に帰るとただいま、そんな誰かに言うことも、誰にもいない部屋で独り、いつも漏らす独り言。
そんな独り言を漏らしながらお湯を入れたラーメンは後30秒、スマホ片手にその時間を待ちながら、会社の用事を済ませる。
その時間も過ぎて、ずるずるずると音をならして、ラーメンをすする。
自分は人事以外はまぁまぁ恵まれていると思う。
お給料はそれなりに多く、それなりの趣味を持ち、
家は6人ほどの家族が暮らせるほどの立派な家に住んでいる...まぁ、私の家族は大昔に全員、親戚含めてお空の上なんだけさ。
とりあえず、お風呂入ってから寝よっかな。
...
通行人を横目で見て、自分の立場と見比べて見る。
彼らは塾帰りや、仕事帰りだろうか、対しての僕は、みすぼらしい服装に、伸びきった髪の毛、栄養が取れていないのか、体のあちこちが細い。
(寒いな...)
排気口のストーブで暖まりながら、密かにそう思い、
霞がかったような路地裏の奥で、女の人の声が聞こえる、[お取り込み中]のようだから無視して、
僕とは違う世界を眺める。
当然、家族なんていない、両親は居なくなり、姉さんは二年前に動かなくなった。
「寂しいな...」
そんなことを言っていたのは、知らない間に寝ていた、僕の寝言だった。
次の日
カーテンの隙間の朝日と6時の目覚時計が私を容赦なく、起こしてくる。
「はい、はい、いま...起きる...」
寝ぼけている私は今どんな顔をしているんだろう、
朝は、それなりに弱い。
2分後にベッドから体を出し、身支度と、朝ごはん、
いつも通りに冷蔵庫から、パンとマーガリン、ベーコンとレタスを取り出し、それぞれ、違った用意をして、インスタントコーヒーと砂糖をお湯で溶かす。
「いただきます」と手を合わせ、それぞれ揃ったいつも通りの朝ごはんを食べる。
トーストはマーガリンを塗り、焼いたベーコンとレタスは皿に盛られ、好きなキャラクターの柄のマグカップには甘めのコーヒーが淹れてある。
朝のテレビは、今日は妙に暗い話題だった。
とりあえずご飯は食べて、スーツに着替え、髪型をセットし、くろぶちメガネをかけて、バッグ背負って...
「行ってきます。」
そんないつもの朝を過ごして駅に行く。
...
一言で言ってしまえば、私の仕事は王手企業のOLという感じだ。
一日中デスクワーク、そしてたまに外回り。
「太刀川、昨日の書類、どうだ?」
「はい、今お出しします。」
バッグをあさって、書類を探す。
「あった、部長これをどうぞ。」
「...あぁ、一通りは大丈夫だな、そして今日の書類だが...」
「はい、係長に渡されたやつですね、あれは順調に進んでおります。」
「それならよし、引き続き頑張りたまえ。」
「はい。」
カタカタカタと、パソコンのキーボードを鳴らして、
仕事に打ち込む。
...
社長室
「そうだな...太刀川清花(たちかわきよか)25歳、ここに勤めて一年半ほどか...うむ貢献も申し分ないな。
少し給料良くするか...ふむふむ、○○○31歳~~」
三時間後、
「ふぅ~」
高らかに背伸びをして、背中の筋肉をほぐす、
「よし、この書類も一段落したし、お昼にしよっか~」
席を立ち、部長に一言、
「部長、お昼休みにしますね、」
「あぁ、しっかり食って休め。」
部長も、書類の整理、訂正などのお仕事で忙しそうだ。
時間は一時ほど、お昼休みとは少し時間はずれているけど、この会社ではそれほど珍しいことではない。
「き~よ~か~さん!貴女もお昼休みですか?」
「はい、社内レストランでお昼ごはんは済ませようと...」
「そうですか、それなら私も御一緒させて頂きますね。」
「まぁ...いいですけd」
「やったぁー!それじゃあ、一緒に並びましょう?」
「はい、わかりましたよ。」
突然やってきた、この女性、この人の名前は、
天草三月(あまくさみつき)、とてもいい人なのだがとても押しが強い。
私よりも一回り身長が低くて、スタイルがいい、顔もすごく可愛いので、社内ではすごくモテる。
まぁ彼女がモテようとモテまいと、正直どうでもいいですけど。
「へぇ、貴女はハンバーグ定食ですか。」
「清花さんは和風定食なんですね。」
「こういうのは普通でいいですから。」
「美味しいですよ?ここのハンバーグ、一口要りますか?」
「...結構です、それは貴女のですし、ちゃんと食べないと後半お腹空きますよ?」
「それもそうですね、そうします、お気遣いどうも!清花さん!」
お昼ごはんを完食し、部所に戻って、残りの時間を休憩に回す。
「...太刀川、休憩終わりだ。」
部長が低い声で、少し遠くの私に話しかける。
「はい、わかりました!」
そう言って、パソコンを開いて、仕事に取り掛かる。
四時間後、
この後にも、何回か休憩を挟んで仕事に没頭した。
「そろそろ定時だ太刀川、仕事切り上げて帰れ。」
「はい、お疲れ様です部長。」
パソコンをシャットダウンして閉じ、帰りの支度をする。
「あぁそうだ、太刀川、仕事家に持って帰んなよ、
うちはまだ余裕がある、そんなに急いでやる必要はない。」
「はい、わかりました。」
「それじゃあな、お前の仕事はいつも期待されてるよ。」
「はい、ありがとうございます、さようなら、
部長。」
やっぱりうちの会社はそれなりにホワイトだ。
時間で言うと五時半、今日は残業ないし、おとなしく帰ろうか。
それに、残業といっても、そこまで残るわけじゃない、せいぜい三十分程度だ。
ここからは趣味の時間、アニメやプラモデル、漫画に小説。
いわゆるオタクなんていう趣味を持ち合わせている私は、寂しい、とは言いつつも、あんまり人との馴れ合いは、好きじゃない方の人間、だけど、家族はやっぱり欲しくなる、家のなかで、他愛もない話をして、
遊んで、一緒にご飯を食べる。
まぁ、正直、誰かさんはペットでも飼えばと言うかもしれないけど、私は動物じゃなくて、人の家族が欲しいなと、思う。
そんなことを考えながら駅周辺の道を歩いていると、
路地裏から、髪の長い少年のような人がこっちのことを伺っていた。
「あっ、ごめんなさい。」
と言い、路地裏の中に駆けようと後ろを向こうとして、
「待って、」
少年の服の袖を引いて、私はその少年を引き留めていた。
「あなた、私と一緒に来ない?」
私も、なぜ誘ったのかはわからない。
けど、この少年は、私と同じような、寂しさを持っていると、思った。
名無しの僕は幸せの中で眠る なすのいちばん @sei-arus4805
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