──こういう時、「名前順」で構成されているあれこれを恨みたくなる。

この日も、当たり前に俺は大勢の前で自己紹介という面倒臭いことこの上ないことを一番にやらなければならなかった。


やたらと静まり返っている教室に俺は空を仰ぎたい気分になった。――俺はどっちかというと場に溶け込んでいたい。沈黙を破るのなんか好かない。


でも、幸いと言っていいのか分からないが、式のすぐ後で全体的に皆緊張していた。この状態なら変に注目を集めることもないだろう。


けれど、その意に反して、無愛想に放った言葉は、俺のいう安寧な日々をもたらしては、くれなかった。


♦️

新しく中学に入ってから数日、件の吾妻くんは所構わず話にもちあがるようなヒトだと知った。

「また、ヒソヒソされてる 」

──至る所で、モデルの誰だかに似てるとか、雰囲気が完璧すぎる、とか。

すること全てに無駄がなくて、近寄り難いのはなんとなく分かるけど。


── 前の学校で、こんな人いなかったから。別世界って感じ。


休み時間、それとなく同じクラスの叶和と喋っていると、颯爽と男子数人と階段の方へ駆けていく完璧な人を見かけた。「───あぁ、」

吾妻ね。

「え、」

突然のパスに困惑の声しか出せない。


すると、叶和が呆れるような笑みを浮かべた。

「──ど?」

一回位は見惚れちゃうよね。的確を付いた言葉に、ーーーあまりにも図星すぎて、咄嗟に私は否定してしまった。──うーん・・・確かに格好良い、けど・・・


けど? ──吾妻?くんは、あんま話とか聞いてくれなさそう。すると叶和は、それがツボに入ったのか唐突に吹き出した。


ちょっとバレたかと思った。

でも、“普通 ”な私が、誰よりも輝いてる人に片思いなんて、烏滸がましい。


笑う叶和を横に、複雑な思いになりながらそのあとの時間を過ごした。



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