Spin-off
【親友の初恋】~フォンネス・クライトン~
俺は賑やかな雰囲気が好きだ。だから目的なくよく内地に遊びに来ている。
今日の休日もその予定であった。
未の刻の初刻に差し掛かるいま現在がそうだ。
ただ今回は想定外な休日で、俺は一人ではない。
「ねえ煌侃、なにか欲しいモンでもあるの?」
「ああ」
休日は鍛錬か読書が鉄板の親友、夜条風華煌侃と一緒にいる。昨日唐突に「内地に付き合ってほしい」と誘われ、椅子から転げ落ちた記憶は真新しい。
伯爵家の息子とあり、煌侃はクソが付くほどの真面目な男だ。正義感が強く忠誠心が厚い。19年雑念に捕らわれず女に
そんな男が恋をした。相手は崇泰内地の天女、麗優淑だ。彼女は第一皇太子を助け、獅龍帝と皇后の半ば強引で押し付けがましい褒美を賜り、陽敬宮に仕える羽目になった容姿端麗な
第一印象は
彼女が第一皇太子を助け、俺たち侍衛が駆け付けた時の話だ。彼女が足が縺れ煌侃に倒れ掛かった際、煌侃が慌てて強引に押し退けた行為に彼女は「謝ったのに」と不貞腐れた。素直で正しい反応だ、でも宮中の女子は絶対にあんな態度にならない。
煌侃に普通に、平等に、ひとりの人間として接した女性は初めてみた。
大袈裟に思うだろうが、貴族の上に爵位を持つだけで女性は俺達の機嫌を損なわぬよう好まれるよう善人の仮面を貼り本音を隠す。偽善と欲に満ちた連中しかいない。
野に咲く花は温室で育った花にない美しさがある。
親友が恋に落ちるのも当然で、きっと必然で、運命だった。
「――フォン、この店だ」
「あいよ~」
目当ての場所に煌侃が入り、どれどれと俺も煌侃の背に続いた。だが開いた扉を跨ぎ、いやいやいやと後退して看板を確認し、再度中に入る。見渡せばつげ櫛、簪、髪飾り、首飾り、造花や
「いい出来だ。ありがとう」
「いえいえこちらこそ! 円様にはいつも御贔屓にして頂いておりまして、またどうぞ何なりとお申し付け下さい」
煌侃が何か店主から受け取り支払いを済ませる。どうやら事前に注文していたらしい。
「ありがとうございました!」
上機嫌な店主に見送られ、数十分に満たない滞在で煌侃と俺は外に出た。俺は垣間見えた品物の確認を煌侃にする。
「――
「……ああ」
「自分に自信しかない
「…………」
煌侃が唇の端をへの字に下げた。無言の肯定だ。
「自分のモンだって印は必要だよ、うん。てかさ、皇族に目ェ付けられたら厄介じゃん。召し抱えるかサイアク別の方法で……、早めにしろよ煌侃、どうせ覚悟決めてんだろ?」
皇族は制度が変わっていない、側室を娶れる。万一、誰か優淑をお気に召せば自分の意のままに彼女を迎えられる。
多分、恐らく、確実に、煌侃は出逢って日が短かかろうと長かろうと関係なく、好きになった時点で彼女を娶る意思でいたに違いない。
「ああ、心配ない」
「そ」
俺は親友を信用するのみだ。余計な意見やお節介はしない。残る気掛かりは優淑が煌侃を選んでくれるか否かだった。
仮に優淑が煌侃を受け入れた場合、夜条風華家は子孫繁栄で未来は明るいだろう。
仮に優淑が煌侃を拒絶した場合、夜条風華家は子孫が絶え滅亡するだろう。
俺の親友は妥協しない性格だ、黒か白か、曖昧がない、極端で困る。
「天に祈るわ、俺、お前のために」
「……?」
煌侃は俺の吐露に首を傾げる。片方の眉尻を上げ、催促されるが教えない。
「昼飯、俺が奢ってやるよ」
煌侃の初恋を俺は応援する。親友の肩に腕を回し、冬晴れの下、往来激しい内地の人混みへ突き進んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます