最終話:これから先も
「皇后様にご挨拶を」
夜条風華煌侃と優淑は皇后の正宮、
「――遅刻よ」
開口一番、説教をされた。
現在――
本来の拝謁予定は
二人は揃って謝罪する。
「申し開きもございません」
「まったく……、優淑こちらに」
溜息を吐く皇后は然程に怒っていない様子だ。呼ばれた優淑は座る皇后の御前に歩み寄り、差し出された両の手に自分の指先を遠慮がちに乗せた。ぎゅっと握り返す皇后は上機嫌に瞼を細め喜んだ。
「二人の成婚、改めて祝福するわ。おめでとう」
「皇后様ありがとうございます」
「赤がとても似合うわよ」
皇后が褒める優淑の贅沢に刺繍が施された衣服は赤色だ。中々に重く動き難い花嫁衣裳を着ての挨拶回りは厳しい。故に花嫁は翌日、花嫁衣裳に模した赤い長衣を纏う。定番且つ習わしだ。因みに煌侃は黒い軍服に黒の外套を羽織っており、金糸の鳳凰刺繍は優淑と対でできていた。
「陛下と皇后様のご厚意のお陰でございます」
煌侃と優淑が婚儀で着た衣裳も含め、獅龍帝と皇后が崇爛城一の縫い師と
「陛下も此度の成婚を祝していらっしゃるわ。人生最大の喜びに、煌侃、
「有難く存じます」
煌侃は平伏して感謝した。
「立ちなさい」
皇后の許可で煌侃が起立する。
「時代は変化しましたが崇爛城は未だ……、
皇后の優しく諭すような口調に、煌侃と優淑は視線を絡めた。しっかり胸に刻んだ確認を目でする。眉尻を上げた煌侃の瞳に宿る意思は強い。
「
「ええ、信じているわ。婚儀と挨拶回りで疲れたでしょう? 下がっていいわ」
「――
「失礼致します」
二人は腰を低く正面を向いたまま、客間を出、高華宮を後にした。先程まで花の如く舞っていた粉雪は見当たらない。
――二人を照らす空は凍て晴れだ。
風も吹かず澄んだ空気は心地が良い。煌侃が優淑の右手を攫い、指を絡める。
「帰ろう」
「はい」
煌侃と淑、二人が歩む先はずっと一緒だ。肩を寄せ仲睦まじく歩く背中は、相手を想う一途で揺らがない愛に溢れていたのだった。
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