第十一話:鈴華園~After that~
崇爛城の後宮――内廷の正門・
侍女数人を傍に仕える皇后は杏林の御前に立っており、杏林が仕える
ひとりの上位階級女官が皇后の右手を支える。皇后は手入れされた細い眉を顰め、静まる空間のなか口火を切った。いつもの穏やかさは微塵とない。
「――麗優淑を襲った宦官三名は、
「皇后様、
杏林の
「夜条風華侍衛が縁談を承諾した下級女官、麗優淑が目障り、麗優淑が憎い、麗優淑を殺したい、宦官が
「宦官如きの
平伏し、杏林は反論した。絶えず流れる大粒の涙を石畳が吸い込んだ。
「……大監」
皇后に促され、
「――
「
大監に噛み付く杏林は鬼の形相だ。半狂乱に喚く杏林と異なり、彼女の
「皇后様、
咲濱は真ん中分けの長い黒髪に、レース編みの付け襟が美しい
「私情を挟んだ思い立っての行動は予測が難しいわ」
ゆっくり首を振る皇后は、罪を認めない杏林に溜息を吐いた。本人の弁解は飾られた嘘、浮いては沈む
皇后は明らかな真実を選んだ。
「――藩杏林は嫉妬に駆られ、麗優淑を殺める画策をした。大監、十五回打ち、
罪人を断罪する。大監は帯を締め、命令に従った。
「
「嫌です! ご容赦を! 皇后様、私は無実でございます! 咲濱様! 咲濱様お助け下さい!! 咲濱様!!」
酷背舎は罪を犯した女官、宦官がいく労役場だ。時に過酷な肉体労働を強いられる。
名を呼ばれても咲濱は素知らぬふりだ。咲濱は皇后に頭を下げた。
「皇后様、
「ええ」
相槌を打つ皇后に再度膝を折り、咲濱は侍女達と共に足早に立ち去る。大監と警防総官、宦官も職務を果たすべく、奇声を発す杏林を引き摺り夜の後宮に消えていった。残るは、事の顛末を見届けた煌侃だ。
皇后は深呼吸を浅くし、一拍後、煌侃に感謝する。
「煌侃、
「突然の事態に困惑しておりましたが、下手人は裁かれました。皇后の下された処断に優淑も一安心でしょう」
煌侃も又、安堵していた。優淑が再び命を狙われずに済むからだ。
「
「……皇后様、私は」
お見通しの見解である。煌侃が主張しようとした瞬間、
「結論を急がないで勘違いよ煌侃、私は母上に喜ばしい縁談と伝えたの」
「皇后様……」
皇后の賛成は大きい。夜条風華家で影響力の強い皇后に否認されれば、どんな形であれ縁談は見送られたであろう。
「夜条風華家を貴方の代で潰せないでしょう?
冒頭が皇后の本音に違いない。されど煌侃にとって理想的な展開だ。
「皇后様の深い御慈悲、有難く存じます」
「そろそろ
二十時以降は禁足だ。後宮は当直の侍衛や宦官を除き、許可なく出歩けない。
「――
迅速果断な対応で一件の幕が下りる。皇后の指示に煌侃は腰を低く後退り、高華宮を後にしたのだった。
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