竜の翼の向こう側に、2人の瞳が写したものは。
◆梨元小鳥◆
第1話 王国歴1923年4月23日
『王国歴1923年4月23日』
親愛なるあなた様
私の国では、竜がまだ生き残っています。
この日記を読んでいるあなたが、外の国の方なのでしたら、きっと腰を抜かして驚かれる事でしょう。
先生から、外の国では「竜」など、とっくの昔に絶滅してしまったと聞きました。
その代わり、外の国にはもっと変わった生き物がたくさん暮らしているんですよね。
全身を石で覆われた四足歩行の魚。
竜と同じくらいの大きさで首だけが異様に長い、網目もようの馬。
風のような速さで地を駆ける、ぶち模様の猫。
この目で実際に見てみたいのです。
この国では、外の事を深く知ろうとする事は固く禁じられていますから、外がどんな場所なのか、知る術がないのです。
少し、竜の話をしましょうか。
先生いわく、人が育てた竜は、騎乗ができる程に大人しく、愛情深くなるそうです。
しかし、野生の竜は気性が荒く、大変獰猛です。毎年群れで町や村を襲っては何百もの家畜や村人を食い殺し、畑を荒らし、甚大な損害を出しているのです。
私が6歳の時、私の両親も竜に喰われて亡くなりました。妹のクシェルも、おばあさまもおじいさまも…黒猫のミーニャも、近所のアリエルもみんなみんな…竜に食われて亡くなりました。
ごめんなさい。暗い話になってしまいましたね。
それでも……私はその死別と悲しみと乗り越え、命を捨てる覚悟で《竜使い》を志願したのです。
私にはずっと前から叶えたい夢があるのです。
《竜使い》となり、人々を竜の被害から守りたいという思いもありますが…いつか…竜の背にのって、外の世界を見てみたいのです。
◆
こうやって見ると、何だかちょっと恥ずかしい。
口元がニヤニヤと緩んでしまう。
親愛なるあなたって……本当に実在をするかも分からない《外》の国の人に宛てて書くなんて、我ながらどうにかしてると思う。
けれど、いいじゃないか。
誰が笑おうが、これは私の夢なのだから。
今日の訓練もなかなかにハードだったし、正直かなりしんどいのだが、この日記だけはやめられない。
記録を取るという行為は、精神的安定に繋がるのだ。
「すう…………すぅ……」
気持ち良さそうに寝てる。
私をいつも助けてくれる、とてもとても大切な存在。
…頬っぺた、ぷにぷにしてやる。
これがどんなに夢物語でも。
それが突拍子もない、馬鹿げた話でも。
私は、いつか、この夢を叶えたい。
もし…その場に…シルターも一緒に……居てくれたらなぁ。そんな事を考えつつ、私はその日の日記帳を閉じた。
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