第22話 (ホワァーーーッ!?!?!?!?!?//////////)






「お待たせしました〜。番号345番でお待ちのお客様〜、番号346番でお待ちのお客様〜」



 店員クルーに番号を呼ばれ、二人して受け取り口に向かってレシートに書かれた番号を軽く見せる。



「はい345番と346番ですね〜。こちらが………あれ?」


「あっ、間違ってないから大丈夫ですよ。そっちの少ない方がおれで、明らかにボリューミーなのがこいつのです」


「………こっちがあたしです」


「あっ、えっ、えっと、は、はい! お待たせしました〜」



 店員さんは確かに女子の食べる量としては多すぎる注文に一瞬驚き、すぐさま顔の筋肉を引き締めて、気を遣ったスマイルをくれた。


 わざわざ説明しなくていいのにと、奏人の足の脛すねを蹴ってやろうかなどと考えながら、菜々はすんでのところで押しとどまった。



(ダメダメ……今日はデート、デートなんだから)



 今日は普段と違った女の子らしい仕草で奏人をドキドキさせるのが一日の目標なのだ。


 デートが始まってたった15分で幼馴染のノリが先に出てしまうのは間違いなく負けな気がする。



「菜々? どうしたんだ?」


「ううん、なんでもない」


「そう?」



 全くもって普段通りのその澄ました顔、今日中に絶対真っ赤っかに染めてやるんだから!




 二人並んでカウンター席に座り、奏人はハンバーガーを手に取って食べ始めた。



 対してわたしはメモ帳に書き出した『ドキッ♡女の子らしい仕草に萌えだよ』作戦の内容を頭の中にリストアップする。



 作戦その①

 口についた汚れを拭ぬぐってあげる!



 まあ、よくあるベタなシチュよね。


 こういうハンバーガー系なんかのケチャップとかは特に口元につきやすいし、指……はなんか恥ずかしいから拭いてあげるためのナプキンは準備オーケー。


 ドキドキさせるためのイメトレだって昨日の夜からしてきたし。


 さあ奏人、いつでも口を汚しなさい!





ーー数分後……



(むぅ〜〜〜、全然汚さないわね)



 当初の予想が外れ、奏人はさして口元を汚すこともなくハンバーガーを美味しそうにパクついている。



(……今まで意識したことなかったけど。こいつ、食べる所作とか案外綺麗なのよね)



 男子のくせに部屋の掃除もしっかりしてるし、高校からは家事だって毎日かかさずこなしているようだ。


 たまに食べる奏人の料理は、あたしが作るものより断然美味しいし。


 几帳面というか、真面目というか、何というか。


 そんな一面は天国に行ってしまった佳花さん奏人のお母さんに似ている気がする。


 綺麗で大人っぽくて、それでいて飾らない女性らしさに子供ながら憧れた思い出がよみがえる。



(やっぱり奏人はああいうタイプの方が好みなのかね〜………)




「……おれの顔に何かついてる?」


「へ!? な、何で!?」



 ズズゥーとコーラを口にしながら奏人の横顔を見つめていたあたしに気づき、奏人が話しかけてきた。


 顔に何もついてないから困ってるんだけどそれはおいといて……



「だってお前、さっきからおれのことずっと睨んでるし」


「べ、別に睨んでなんかないし」


「まだ朝のこと怒ってる?」


「それは別に……いやまだちょっとは怒ってるけど、今は関係ないというか…」


「じゃあ余計に謎なんだけど」



 まさか、口を拭いてあげるチャンスを窺ってたなんて死んでも言えない。



「い……」


「い?」


「いいからさっさと食べる! この後だってまだまだしたいことあるんだから!」


「えぇ……」



 だからそう一方的に言い放ってこの話題を終わらせるしかなかった。


 奏人の困惑する瞳を誤魔化すように、あたしは手元にあるハンバーガーにかぶりついて食べ進めていった。



「んぐっ……!」


「あ〜あ〜、急いで食べるから」



 慌てて食べ進めたせいでハンバーガーを喉に軽くつまらせてしまったあたしに、奏人は自分のコーラを差し出してくれる。



「けほっ……こほっ…………」


「大丈夫か?」


「だい……じょぶ」


「口元にもついてるし」



 そう言って奏人は、そうするのが当然だとでもいうかのように、親が子供にするかのように、極めて自然にナプキンを手に取ってあたしの口を拭いた。



(ホワァーーーッ!?!?!?!?!?//////////)



「これでよしっと」



 突然の思わぬ出来事に脳がショートしてしまい全身が固まっている。



「ん? 食べないのか?」


「か……」


「か?」


「か……」


「か」


「奏人のっ……」


「おれの?」



 照れと恥ずかしさに身を委ね、罵倒と共に豪快な一発をお見舞いしてやろうと拳を握り込む。


 だけど目の前に座るこいつの表情は、いつもあたしだけに見せてくれるの顔で。


 そんな彼にあたしがのままでいてはドキドキも欲情も、ましてやその先の関係に進めるはずがない。


 握り込んだ拳は力を抜いて奏人の脇腹にコツンと軽く当てて下ろす。



「……………………………………何でもない……」


「え、めっちゃ続き気になるんですけど……」


「頭良いんだし推理でもしてみたらいいじゃん」


「おれにも解ける問題と解けない問題があるんだが……」


「バーカ……」



 鈍感な幼馴染にあたしは少しだけ意地悪をして、前に向き直ってポテトを一本口に放り込んだ。



(絶対に! 今日! 奏人の心臓をバックバクにさせてやる!!!!!)



 心の中でそんな闘志をメラメラと燃え上がらせながら。






現在の菜々の勝敗

〜〜 0勝2敗





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