11.魔法都市ルーンサイド
スレイとロイドは魔法都市ルーンサイドに到着した。
王都の四衛星都市の一つであり、魔法研究に集中した特区で、錬金術協会の本部もここに置かれている。
この王国で錬金術師を志す者は、必ずこの都市に訪れ、滞在しなくてはいけない。
ここがしばらくの間、スレイのホームタウンとなるだろう。
「……ようやく着いたな。ロイド、お前が居てくれて助かったよ」
照らされる丸い月とあいまっての幻想的な風景。スレイの三日の旅で一番印象に残った事であり、ロイドに対する親愛の情がより強まった一件だった。
「……で、そんな功労者に対し、こんな事はしたくないが、しばらく我慢してくれよ」
スレイは申し訳なさそうに、ロイドを撫でた手をそのままかざした。
『降伏化』
スレイがつぶやくと、巨大な狼の姿をしていたロイドの姿が小さくなり、抱えられるくらいの大きさに縮んでいた。
今まであった迫力はまるで気配を潜め、可愛らしい愛玩動物のような小型サイズである。
『降伏化』──これこそが、動物や魔獣、幻獣を従える
これをなくして、都会で大型の動物、魔獣や幻獣といった類の生物を連れ歩くのは困難といっていい。スレイの故郷のように使役に理解がある地域もあるが、この規模の都市では市街地に入ったら『降伏化』は必須である。
使役下にあり、人を襲わないようにコントロールされているかどうかなど、他人には一切区別がつかないのだから、こればかりは仕方ないだろう。
この姿のロイドは、巨躯の狼の姿とは違った良さがあった。というよりかなり愛らしい。
だが、小さくなったロイドを決して褒めたり愛でたりしてはいけない。『降伏化』された時の姿が気に入らないらしく、迂闊にも褒めたり愛でたりでもしたら、恩人であるエリアにさえ、しばらく反応してくれなくなるくらいである。
部屋に帰った時は、すぐに降伏化を解除しているが、あまりに『降伏化』の期間が長いと、拗ねてしまったロイドの機嫌を取らなくてはいけない事があった。
やはり美しく勇壮な元の姿の方を気に入っているらしい。ロイドは強く賢く情が深いが、一方、とてもプライドが高い一面もある。
「よし。行くか。……長期宿泊する場所を探す前に、錬金術協会本部に顔を出しておこう。『
スレイは小さい姿になったロイドを肩に止まらせて、錬金術協会本部に向けて歩き出した。
◇
錬金術協会本部は、ルーンサイドでも有数な巨大な建造物と言っていいくらいの立派な建物だった。相当に儲かっているのだろう。
建物内には、魔術師然としたローブを着ている者や、貴族服を纏った者が多く見られた。
もっともローブを着ている者は魔法都市であるルーンサイドではありふれているので、特に珍しい事ではない。
(みんな育ちが良さそうな顔をしてるな。……まあ、それはそうか。貴族か裕福な資産家しか、基本的には錬金術師になれないんだったな)
幸い今のスレイは餞別に貰った上質な
あのボロボロの薄汚い
この点はエリアとヘンリーからの餞別に素直に感謝したい気分だった。
「こんにちは。錬金術師になりたくてな」
スレイはタイトな制服を着た、明るいブラウンのポニーテールが良く似合う受付嬢に簡単に挨拶をした。
彼女はイライザと書かれた名札を付けている。彼女の名前だろう。
「ようこそ、錬金術師協会へ。案内は私、イライザが担当します。……錬金術師試験の申し込みですね。では、こちらに、名前、年齢、住所、家柄……」
「待ってくれ。俺は貴族ではないんだ。錬金術師試験の申し込みは後でしたいと思っているが」
「あ……し、失礼しました。商家の方ですね。えっと、用紙は別のものが……」
イライザは慌てた様子で、引き出しから用紙を探し始めた。この様子からすると頻繁にはない事なのかもしれない。上納を果たせるだけの財力がある商家の者となれば、繋がりが欲しい美味しい上客である。
そして、これもまた勘違いであるが、貴族でなければ商家の金持ちと勘違いされるのは無理のない事だった。
今は錬金術に興味をもった
「いや、それも違う。貴族でも商家の生まれでもない。俺は一般人だ」
暫しの沈黙。そして、イライザの表情が一瞬落胆の様子を見せたのを、スレイは見逃さなかった。
その反応は、ああ錬金術師界隈の仕組みを知らない客が来た。といったものかもしれない。
だが流石にプロの受付嬢らしく、すぐに取り繕うような笑顔を見せた。
「失礼しました。それでは、錬金術師の説明をさせていただきますね。……まず、貴族以外の方が錬金術師になるには、莫大な上納金を収める必要が」
「知っている。金貨一万枚だろ。もちろん用意してきているよ」
スレイはイライザの説明を制し、手を横に突き出した。
『
コマンドワードを唱えると、スレイは亜空間に手を差し込み、『
「金貨一〇〇〇枚。同じものを一〇袋用意してある。……鑑定を踏まえると大変だろうから、別の部屋で誰か呼んできた方がいいかもしれないな。……イライザさん、こういう前例ってあるのか?」
スレイが質問すると、呆気にとられていたイライザが首を横に振った。
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