第96話 そして忍は帰郷する

 そんな風に大陸中が興奮している中、カイは肩にクズハを乗せたいつものスタイルで魔獣のいない台形の山を降りるとそのまま森を抜けて王都を目指していた。正宗はアイテムボックスに収納し、両手に差しているのはいつもの村雨と不動だ。


 ドラゴンと逢ってから1ヶ月弱、カイはハスリアの王都に帰ってきた。王都の城門でランクS優先の通路に向かうとカイを見つけた衛兵が詰所から飛び出してきて、カードのチェックもそこそこに、


「待っていたぞ、カイ。国王陛下がカイがきたら城に呼んでくれと仰っておられる。着いた早々悪いがこのまま城に向かってくれるか?」


「国王陛下が?」


 カイを見かけた時に既に別の衛兵は城に向かってカイの到着を報告に走っており、城門で話を聞いたカイはそのまま衛兵が仕立ててくれた馬車にのるとそのまま城を目指す。


 あまりの急展開に戸惑っていると、馬車に一緒に乗り込んだ衛兵が城に向かう馬車での移動中にドラゴンが飛翔してきたときの話をカイにする。


 なるほどあの時、ドラゴンの夫婦は大陸中を飛んでいたのか。それで戻って来てから気にせずに下山しても良いと言ってくれたんだな。それにしても霊峰から出ないドラゴンが大陸中を飛んでまで俺の行為の正当性を証明をしてくれたのか。申し訳ないことをしたな。


 腹の上に乗っているクズハを撫でながらそんなことを考えていると馬車が城の門の入り口に着いた。詰所を通っていないのでイレーヌがいるかどうかはわからず、馬車を降りたカイは案内されるままに城の中を移動して国王陛下との謁見の前に向かう。


 謁見の間には絨毯の左右に何名かの貴族と思える人たちが立っていた。しばらくして、


「国王陛下が参られました」


 その声一斉にその場で膝まずく。そうして、


「皆のもの、面をあげよ」


 その声でカイも顔を上げると正面の椅子に国王陛下が座っていてカイと目が合うと破顔した顔となり、


「カイ。ついに刀を手にした様だな。それもドラゴン族から。いや見事じゃ」


 頭を下げるカイ。


「ドラゴンが飛んできたという報を聞いた時はびっくりしたが、そのドラゴンが我らの頭の中に直接語りかけてきてまだびっくりしたぞ。そしてその内容。そこまでドラゴン族と通じ合えた者がいるという話しは聞いたことがない。一体どうなったんだ?」


 カイは場所は言わずにハスリアの北部でまだ見つかっていないダンジョンがあるのでは無いかと探して歩いていた時に自分を見つけたドラゴンが地上に降りてきて、そのドラゴンに刀の話をしたら探してやろうと霊峰にある宝物殿にあった刀を持ってきてくれたという話をする。


 そうして手に入れた正宗を国王陛下に披露した。陛下は刀を見てそれが幻の名刀か。無事に手に入れてよかったではないかとカイを褒め、そして


「それにしてもドラゴンと話をしたというが、それは普通ではありえないぞ?」


 とカイを見て話しかけてくる。


 国王の言葉に頷くと、


「私も最初彼らと対峙した時には今まで感じたことがない様な威圧感を感じました。ただその中に全く殺気は感じられませんでしたのでひょっとしたらと思ってこちらから話かけた次第です」


「なるほど。そしてその思いがドラゴンに通じたということか」


「おそらくは」


 そう言うと国王陛下は声を出して笑いだした。そうしてカイを見ると、


「見事なり。いや実に見事だ。普通ならドラゴンを前にして話し掛けられる様なやつはいない。かく言う余もその場に居ればおそらくは萎縮してしまうだろう。そんな中堂々とドラゴンに話しかけ、それだけでなく願いまで叶えさせるとはな。いやカイの様な男は初めて見たぞ」


 どう言っていいかわからずに頭を下げていると、国王陛下が言葉を続けた。


「カイは男の中の男であり、最強の戦士であると余が認めよう」


 そこまで言うと国王陛下の隣に立っている側近に指示を出す。すぐにカイの前にがっちりとした木箱が置かれた。精緻な彫り物があり王家の紋章が彫りこんである木箱。中をあけるがよいという言葉にしたがってカイが箱を開けるとその中には、白金貨が10枚と王家の彫り物がしてある金で出来た短剣が入っていた。箱の中身を見てそして顔を上げて国王陛下を見ると、


「ドラゴンからは今後も我ら人間に攻撃をしかけることはないという言葉が聞けた。その言葉はこの大陸に住む人間にとってどれだけ安心できる言葉であろうか。その言質をとらせたカイに対する王家よりの礼だ。受け取ってくれるか?」


「ありがたく頂戴いたします」


 その言葉に大きく頷く国王陛下。そして


「これからアマミに戻るのだろう? 余はカイはいつでも歓迎しているぞ。王都に来たら顔をだしてくれ、良いな」


 国王陛下との謁見が終わった。カイは頂いた木箱をアイテムボックスにしまうと立ち上がって謁見の間から出る、案内をしてくれた騎士が城の出口までくると、


「ここで結構だ。少し寄るところがある」


 そう言うと一人になって王城の中の別の場所、守備隊が詰めている場所に歩いていく。


 守備隊の詰所に行くと、その前に一人の元女騎士が立ってカイを待っていた。カイはその女性に近づいていくと、


「長い間待たせて申し訳なかった。迎えに来たよ」


 その言葉に頷くイレーヌ。




 それから半年後、日課としてアマミの村の裏手にある山の祠へと続く石段を登っていく1組の男女がいた。男性は見たこともない素材で出来たシノビの装束を身につけていて、両手に刀を差しており、階段を一緒に登る隣の女性を気遣っている。女性はまだ着慣れない袴を着て、綺麗な金髪を風に揺らせながら男の腕を掴んで石段を一段ずつゆっくりと登っていく。


 階段の途中で立ち止まると男がそこから背後を振り返り、眼下に見えるアマミの街を見下ろすと女は男と同じ様に振り返って眼下にある街を見る。


 しばらく並んで街を見ていた二人、そうして再び階段を向くと隣の女が自分の腕を掴んだのを確認してからゆっくりと石段を登っていった。



【完】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

忍(シノビ)無双 花屋敷 @Semboku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ