第89話 キングストンのエルフ
周囲はまだざわざわとしている。もちろん彼らはリッチと対戦したことはないが、文献などでアンデッドの頂点に君臨すると言われているリッチは知っており。その強さや特徴も知っている。知っているだけにそれをソロで倒して涼しい顔をしているカイを驚きよりも畏怖の思いで見ていた。
そしてどうやってリッチを倒したかと聞きたがる周囲の冒険者達にカイは自分の戦闘の時の話をする。
「まずその魔法を避けられるって時点でもう俺達と次元が違うな」
ルークの言葉にその通りだ、魔法を避けるなんて聞いたことがないとか言っている。
「魔法を避けるというか、相手の動きを予測して先に動けば攻撃は喰らわない」
「なるほど。一歩先を読んで動けってことか」
そうだと頷くカイ。そして、
「普段からそう言う訓練をしておけば自然と体が動く様になる。魔法でも武器でも相手の動きを予想できればそれを避けるのは難しくないからな」
ランクSいやそれ以上の地位にいるカイの言葉は周囲の冒険者にとっては自分のスキルアップにもなる助言があるので皆真剣に聞いている。どの国、どの街でも冒険者というのはたいてい向学心が旺盛だ。またそうでないと強くなれない。
「その読みがあるから初見でもダンジョンを次々と踏破できるってことか」
「俺の出身地のハスリアのアマミという街ではシノビになるためにあらゆる訓練をさせられる。その中で対峙してすぐに相手の欠点を見つけるという訓練がある。生きるか死ぬかのギリギリの訓練だ。いやでも身体が覚えるんだよ」
カイの言葉にシーンとする酒場。しばらくしてルークが、
「シノビってのは選ばれた戦士ってことか。道理で強いはずだ。普通は17歳になって冒険者になってから皆本格的に戦闘を覚えていくんだが、シノビってのは17歳の時点で既に完成されたジョブとして冒険者になるんだな」
頷くカイ。そして
「冒険者にならなくてもアマミではシノビは名乗れる、皆強いよ。街の周辺に出る魔獣はランクB程度なら皆ソロで倒せる実力は普通にある」
その言葉にまたざわつく酒場。
「それでカイの狙っていた刀って武器は出たのか?」
「刀は出たが、俺が探している刀ではなかった」
刀が出たという言葉にびっくりしている皆に宝箱から出た刀を取り出してテーブルの上に置く。皆刀を見るのは初めてでテーブルに置かれた刀を身を乗り出して見ている。
ルークも顔を突き出して刀を見てからカイを見、
「確かに刀だ。でもこれじゃないんだよな」
「ああ。これも確かに名刀には違いない。だが俺の探している刀とは違う」
「ということはだ」
ルークがカイを見たまま言う、その言葉に頷いて
「リッチより強いNMじゃないと出ないってことだな」
「大変だな」
「アマミの使命を背負っている。大変とは思わない」
カイの言葉には気負いもなく淡々としているがそれが却って底知れぬ強さをこのシノビが醸し出している。
刀からカイに視線を戻したルークが
「後ダンジョン2つだな」
「数日休んでから2つ目を攻略するつもりだ」
「カイが探している刀が出るといいな」
「ありがとう」
しばらく雑談をし、これからクエストで出ていくという冒険者達と別れたカイは受付嬢にとある場所を聞いて、ギルドを出るとそこに向かっていく。
大通りから路地を入った奥にその店はあった。
『アイテム屋 ロコ』
どこでもエルフの店はアイテム屋なのかと思いながら扉を開けると客はおらず、扉が開いた音を聞いて店の奥から一人のエルフが顔を出した。そしてカイとクズハを見るなり、
「ハスリアから来たシノビのカイかい?」
「ああ、そうだ。いいかな?」
「いいかなって見ての通り客はいないし、ゆっくりしていきな」
そう言ってテーブルを勧められてそこに腰掛ける。
「なるほどそれがカーバンクルか。カーバンクルをティムしてるって話は本当だったんだね」
「こいつはクズハと言う。俺の出身地のハスリアのアマミって村にいるフェンリルの使いの神獣だと信じてる」
そうしてアマミの村におけるフェンリルの立ち位置について説明するカイ。その説明を聞いてからもう一度クズハを見るロコ。しばらく見ていて視線をカイに戻すと、
「いい神獣だ。大事におし。私はロコ。見ての通りのエルフだよ。あんたのことはキアナのコロアやオースティンのミーシャ、そしてエルフの森のブレアからも聞いてるよ。何でも幻の刀ってのを探してそこら中のダンジョンに潜っては片っ端から攻略しているらしいじゃないの」
ロコの言葉に頷くカイ。そしてキアナで冒険者になってから今までの話を聞かれるままにしていった。長い話を黙って聞いていたロコはカイが話終えると、
「その使命、簡単じゃないけどあんたならやり遂げそうだね」
「そう言って貰えると自信になるよ」
「ふん、エルフの独り言さ」
ロコはそう言いながらも目の前にいるシノビの男を観察していた。長寿のエルフ。今まで数多くの冒険者を見てきたが、その中でも最上位に位置する冒険者であることは間違いない。キアナやオースティン、そしてエルフの森から来ている手紙に書いてあったことは誇張でもなんでもない。今目の前にいるこの冒険者はおそらく今までで最強の戦士に違いないとロコは思っていった。隙のない座り方。常に周囲を警戒しているがそれが自然すぎて殆どの人は気付かないだろう。体に余計な力が入っていない。いつでも即戦闘に入る姿勢を無意識にしている。
「そうそう、これを鑑定してくれるかい?」
そう言ってカイはアイテムボックスからダンジョンボスの宝箱から出てきた指輪をエルフに見せる。手に取って指輪を見ていたロコ。
「魔力を増大させる指輪だね。カイが今しているのより効果がずっと大きいね、こっちに変えた方がいいね」
「そうか。ありがとう」
そう言って指輪を変えるカイ。そのカイの防具を見ていたロコが
「その防具はドラゴンの鱗かい?こりゃまたすごい素材で作ってるね」
これを見て素材を当てるのか、流石だと思いながら、
「その通り、ハスリアの北の山のNMを倒した後、洞窟の中に落ちていた素材を使ってアマミの最高の職人が作ってくれた防具さ」
手を伸ばして装束を掴んで見ているロコ。手を離して
「こりゃ最高の職人が作ったっていうのは本当だね。ここまで綺麗に加工してそして素材の能力を100%生かし切って作った防具は見たことがないよ」
「アマミの職人が聞いたら喜ぶよ」
それから出されたお茶を飲んで雑談をする。キアナのコロアやオースティンのミーシャとはエルフの森でよく一緒に遊んだ仲らしい。
「ところで未クリアダンジョンは後2つあるって話だがもちろん攻略するんだろう?」
「当然だ。数日休んでからまたダンジョンに潜る予定だよ」
「また何か出たら持ってきたら鑑定してあげるよ」
「そりゃ助かる。その時は世話になるよ」
そう言って指輪の鑑定代として金貨1枚をテーブルの上に置いて立ちがるカイ。
肩にカーバンクルのクズハが飛び乗ると
「じゃあまた」
と言って店を出ていった。その後ろ姿を見ながら、
「すごい男だ。あれ以上の冒険者はもう出ないだろう。間違いなくランクSSS以上だね」
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