第84話 ローデシア


 その後数日間を王都で過ごし、ジムの店に顔を出した翌日の朝カイは肩にクズハを載せるいつもの格好で王都の城門から外に出て西を目指していく。


 王都からローデシアに向かう街道は広くて整備されており、歩きやすい道をひたすら西に向かい、夕刻になると街道沿いにある村の宿で疲れを取りながら進んでいった2週間後、ハスリアとローデシアの国境に着いた。


 ハスリアでの出国は問題なく、そのまま今度はローデシアの入国を待っていると入国の列を警備していたローデシアの衛兵がシノビ姿のカイを見つけて近寄ってきて、


「すまないがギルドカードを見せてくれるか?」


 言われるままにカードを見せると


「やっぱりだな。ランクSのシノビ。間違いないな。ランクSは優先で入国出来る。こっちからどうぞ」


 カイは別に急いでいなかったので列に並んでいたのだが、衛兵に着いていき一般の門とは別の門に案内される。そこでもう一度別の衛兵にカードを見せてそのカードを返して貰ったら際、


「ローデシアには腕試しに来たのかい?」


「そんなところだ」


「ダンジョンには強い魔物もいると聞いている。楽しんでくれ」


 そうしてローデシアに無事入国するとそこから伸びている道を歩いていった翌日の昼ごろ、道が2つに分岐している場所についた。


(これがジムが言っていた分岐だな。左は王都に。そして右がキングストンに続いている道か)


 立ち止まって左右を見てから右に歩き出すカイ。一緒に街道を歩いていた商人らはほとんどが左の王都の方面に向かっていったのでこの分岐からは街道を歩く人の姿がグッと減って滅多に見なくなっていった。


 人が少なくなるということは魔獣が出やすくなるということでキングストンへの道を歩いているとランクCクラス、時々ランクBがチラホラと見えるがカイはそれらを無視して街道を歩いていく。カイに気付いて襲ってくる魔獣は魔術で倒して歩く速度を緩めない。


 途中の村で休んだり、村がない場合には野営をして街道を進むこと10日目、今日の夕刻にはリビングストンに到着するだろうと街道を歩いていると昼ごろ街道の先で魔獣と戦闘をしている冒険者を見つけた。


 魔獣はランクBが4体、対する冒険者はランクBクラスの様だが4名で、4人で前後左右を見ながら戦闘しているがどうやら旗色が悪そうだ。


 4人のうち僧侶っぽい女性は魔力がないのかフラフラで魔道士風の女性も同じ様に魔力を使い果たしている様だ。盾を持っているナイトと剣を持っている戦士の男二人が4体の攻撃をなんとか凌いでいるが時間の問題でやられそうな雰囲気だ。


 カイはそれを見て駆け出して彼らに近づくと、


「助けはいるか?」


 その声のする方を向いた4人、ナイトの男が直ぐに、


「頼む」


 その声を聞いたカイは舞の魔術を4体にぶつけると、あっという間に4体の魔獣が魔術にやられその場で絶命した。


「凄い魔法だ」


「一撃だ」


 そんな声をあげている4人に近づくと、


「大丈夫か?」


「ああ、助かった。ありがとう」


 ナイトの男が代表して礼をいって、今気付いた様にカイの格好と肩に乗っているカーバンクルを見て、


「シノビ… ひょっとしてハスリアのランクSのシノビか」


「その通り。カイという。ハスリアからローデシアのキンググストンに向かっている途中だよ」


 その声にぐったりとしていた他の3人も頭をあげてカイを見る。僧侶と魔道士はほとんど魔力がない上に魔獣の攻撃を受けたのか傷を負っている。それを見て


「傷があるが俺には治癒魔法はないからな」


 そう呟くと肩に乗っていたカーバンクルのクズハがその場でクルッと1回転すると4人全員に治癒魔法が掛かり、傷が綺麗に消えていった。


 びっくりしているカイの肩の上でもう一度クルッと回ると今度は回復魔法で4人の体力が見事に回復した。


「クズハ、強化以外に治癒と回復もできたのか」


 カイの言葉に大きくしっぽを振るクズハ、その背中を撫でながら、


「そうか、今まで俺に治癒や回復をする必要がなかったからだな」


 そうだと言わんばかりにまた尻尾を大きく振る。


「「ありがとうございました」」


 立ち上がった4人から礼を言われ、


「礼はこいつに言ってやってくれ」


 肩のクズハの背中を叩くと、


「もちろんだが、その前に魔法で魔獣4体を倒して貰ったのでそちらのお礼も」


「わかった」


 そうして道端に座って水分を補給する4人の隣に腰を落として彼らの話を聞くと、皆キングストン所属の冒険者でランクはB。街道の魔獣処理のクエストを受けてここに来たところ、リンクして4体同時に相手をすることになったらしい。


 ナイトがリックというリーダー、他に戦士のジョン、僧侶のミント、そして魔道士のケリーという4人組だ。


 魔力が欠乏している二人の回復を待つ間にカイは4人と話をしている。


「ローデシアの冒険者の間でもハスリアでシノビのランクSが出たという話しは話題になっている。もっともここじゃあシノビなんてジョブはまず目にしないから実際どれ程強いのかなんて話しになってたけど、さっきの魔法を見る限り俺達の想像以上の実力がありそうだ」


 リックが言うと戦士のジョンも、


「シノビってジョブはハスリアのごく限られた地域の特殊なジョブだって聞いてるが」


「その通り、ハスリアの南にあるアマミに住んでる人がシノビのジョブになれる。他の街じゃあ刀とか装束なんてないからな」


 カイの言葉になるほどと頷くメンバー。


「それでキングストンに行く目的はダンジョン攻略なのかい?」


 カイはブルーの言葉に頷いて、


「未クリアのダンジョンが3つあると聞いてね。それらに挑戦しようと思って」


「ソロで挑戦するのか?」


「俺はずっとソロだ。ハスリアもモンロビアのダンジョンもこいつとでクリアしてきた」

 

 その言葉にびっくりするリックとジョン。そう言って肩に乗っているクズハをポンポンと軽く叩く。そうすると尻尾を振って応える。


「カーバンクルをティムしているって聞いていたけど本当だったのね」


 少し状態がよくなったのか僧侶のミントが声をかけてきた。


「こいつは俺が住んでいるアマミって街の守り神の使いだと信じてる。ソロでダンジョンに潜る時には心強い相棒さ」

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