第82話 王都経由でローデシア その1


 そうしてそれからカイは昼間は郊外で軽く身体を動かし、ギルドの鍛錬場でハンスを相手に模擬戦をし体調を維持していた。2日に1度はコロアの店に顔を出していろいろと話をしたりして過ごした1週間後の朝、宿のフロントにいたエステバンに、


「それでは王都経由でローデシアに行ってきます」


「うん。カイの探している刀が見つかるといいな」


 エステバンとは毎日の様にいろんな話をしていたカイ。エステバンも惜しげもなく自分の知識や経験をカイに話していた。そしてその足でギルドに寄ってスーザンに行ってくると挨拶をするとキアナの街を出て王都を目指す。


 キアナを出るともう何度も歩いた街道を王都に向かって歩くカイ。クズハの強化魔法の威力も増しているので野営をしても周囲を気にせずにぐっすりと休め(と言ってもシノビの性質から近づいてくる気配は常に感知しているのだが)、キアナを出て4週間弱で王都についた。


 昼過ぎに城門に着き、ランクSのカードで優先的に王都に入るとそのままギルドに顔を出す。


 ギルマスのキンバリーと挨拶をすると今回ローデシアに向かう前に顔を出したという話をするカイ。


「なるほど。モンロビアにもなかったのでローデシアか」



 カイの話を聞き終えたギルマスが執務室の机の前にあるソファに座ってカイを見ながら言う。


「元よりハスリアになければ他国に出向く予定だったからな。ある意味予定通りの行動だよ」


「幻の刀と言われるだけあってそう簡単には見つからないか」


「そういう事だ」


 その後はギルマスよりローデシアに行く前に顔を出してくれと言われ、執務室を出たカイはギルドの受付に戻ってきた。そこにはランクAのバーセルとゴメスがカイを待っていた。


「外から戻ってきたらお前さんが来てるって聞いてな。久しぶりだし話をしようと待ってたんだよ」


「待たせて申し訳ないな」


 そうして例によって受付に併設されてある酒場に座る3人。カイを知っている王都の冒険者達も集まってくる。


 カイはここでもモンロビアの事を詳しく話をしていく。途中で出る質問にも丁寧に答える。その姿は以前と全く変わっていない。


「槍を投げまくる魔人か、いやらしいボスがいたんだな」


「キアナでも言ったけど、相手が動いてから対応するんじゃない、相手の動きを予測して対応する様にすると何とかなるものさ」


 その言葉になるほどと頷く冒険者達。その後もダンジョンの話をしてそれが一区切りついたときにバーセルが、


「そういえば今年の武道会だがな、イレーヌが優勝したよ」


「ほう。出ないかも知れないと言っていたが出たのか」


「ギリギリになって申し込んできたみたいだ。それで本戦は圧倒的な強さだった。片手剣の二刀流にして去年よりも強くなっていたな。誰も太刀打ちできない程だったぜ」


 カイはイレーヌがしっかりと二刀流を身につけていたと知ってそりゃよかったと喜ぶ。


「あの二刀流、カイが教えたんだろう?半端なく強かったぜ」


 ゴメスがカイを見ながら言う。カイは頷いて、


「前回の決勝の後で二刀流にしてみたらと言ったのは俺だ。その後王城の鍛錬場で何度か模擬戦をして教えたことがある。彼女は才能の塊だな。教えた事をその場ですぐに自分の物にしていってたよ」


「もともと才能のあった奴に最強の戦士が教えこんだらそりゃ強くなるわな」


「ただ今年で本当に最後らしい。今年も国王陛下から頼まれて最後にしてくれという条件で出場したっていう話だ」


 義理は果たしたということだろう。それに武道会に出てくる選手のレベルじゃイレーヌの訓練にはならない。カイは明日にでも王城にイレーヌを訪ねようと思っていた。


 その後も王都の仲間と旧交を温めたカイ。


「いつ頃ローデシアに行くつもりなんだい?」


「1週間後くらいを考えてる」


 そんなやりとりもあり、酒場での飲み会が打ち上げになるとカイはいつもの王都の宿に部屋を取ると真夜中にクズハを肩に乗せてジムの酒場に顔を出した。


 扉を開けると相変わらず客がいないバーで、カウンターにジムが一人で座っていたがカイを見ると、


「今日着いたんだろう。待ってたぜ」


「相変わらずの情報通だな」


 カウンターしかないバーの中央の椅子に座るカイ。クズハはすぐに腹の上に移動だ。ジムが薄めの酒をカイの前に置くと、


「こんなのは情報でも何でもない。ランクSのシノビが王都に現れたらニュースになるんだよ。本人が思ってる以上にお前さんは王都では有名だってことだ」


「なるほど」


 そうしてジムにもモンロビアの3つのダンジョンの話をする。そして話終えると、


「事前に教えて貰っていたので助かったよ」


「そりゃいいけどよ。出なかったってことは後はローデシアしかないぜ?」


「ローデシアかまだ見つかってないダンジョンだな」


「なるほど。そいつがあるか」


 ジムはカイがいなくなった後も幻の刀について情報を集めようと動いてくれたらしいが、


「正直ここまで情報が無いとは思わなかったぜ。逆に言うとだな、刀はまだ誰も持っていないということだ。見事に情報が入ってこない。まだ世に出ていないという解釈が一番背説得力がある」


「となるとまずはローデシアのダンジョンに期待するしかないな」


 自分の前に置かれたグラスに口をつけて言う。ジムはカイのその仕草を見ながら


「ローデシアについてはこの前教えた情報から変化はない。辺境にある3つのダンジョンが高難易度の未クリアダンジョンとして残っている。ローデシアの辺境領の中心地のキングストンという街をベースに動くといいだろう。王都から西に向かって国境を超えたら北西に行く道がある。その終点がキングストンさ。ちなみに国境を超えて南西に伸びている街道を行くとローデシアの王都に行ける」


「王都には用事はないからな。そのキングストンという街を目指すさ」


 ジムはカイの言葉に頷き、顔をカイに近づけると、


「もう1つ教えておいておこう」


 そうして思わせぶりにグラスに注いだ酒を口に運んでから


「霊峰についてだ」

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