第80話 帰還石


 オースティン の街を出て人気がない場所にくると、アイテムボックスから取り出した帰還石を手に持ち脳内で『帰還』と唱えると目の前の景色がぼやけたと思った時にはカイとクズハの姿はその場から消えていた。


「…ダンジョンの地下に戻ってきたみたいだ」


 肩に乗っていたクズハも最初はキョロキョロしていたがすぐに自分の場所を確認できた様だ。そうしてダンジョンの1Fから地上にあがると


「おっ、カイ。潜ってたのか?」


「ちょっとだけな」


 そんな言葉を交わすとダンジョンからキアナの街に向かう。2時間ほど歩くとキアナの城壁が見えてきた。


「よう。久しぶりだな」


 城門にいる衛兵もカイは知っている仲なのでカードをチラッと見てすぐに戻しながら声を掛けてくる


「モンロビアに行っていた」


「よその国まで行っていたのか、そりゃご苦労さんだったな」


 挨拶を交わして街の中に入るとまずは宿に向かった。フロントにはいつもの様にエステバンが立っていて、カイを見ると


「帰ってきたのだね」


「今戻りました」


 そうしてフロント横の談話テーブルでモンロビアでの出来事をかいつまんで説明していく。黙って聞いているエステバン。カイの話が終わると、


「となるとローデシアになるのかな?」


「あとはまた見つかっていないダンジョンの中か」


「なるほど」


「まぁカイならもうクリアできないダンジョンはないだろう。モンロビアに行く前よりまた更に強くなって戻ってきているのがわかるからね」


 口調は穏やかだがエステバンは内心ではびっくりしていた。モンロビアに行くと出て行ったカイと今宿に入ってきたカイの醸し出す雰囲気が違っていたからだ。


(目の前のこのシノビはどこまで強くなるんだろう。おそらく既に大陸最強だがまだまだ伸びていく余地を見せている。こんな男は初めてだ)


 エステバンの言葉に軽く頭を下げるカイ。


「すぐにローデシアに行く予定かい?」


「いえ。少し休んでからにしようかと」


「なるほど。ダンジョンは逃げないからね」


 そうしてまた世話になりますと言って、再び宿を出たカイは商業区の中を歩いて路地に入っていきアイテム屋に顔をだした。コロアがカイを見るとテーブルを勧めてくる。


「その顔は刀が出なかった顔だね」


「ああ。ダメだったよ」


「そうそう、ミーシャに会った。鑑定で世話になった。あんたの妹みたいなもんだって言ってたよ」


 そう言ってモンロビアのオースティンでの話をする。


「あの子も元気そうでなによりだよ」


 カイはそこで話題を変える。


「モンロビアのオースティンからの帰りに帰還石を使ってみたが、便利な物だな」


「とういうことは」


 身を乗り出してきたコロアに、


「ああ、今朝オースティンを出たんだ、そしてあっという間にキアナだったよ」


「なるほどね。移動に関して何か問題はあったかい?」


「いや、頭の中で帰還と唱えると目の前の風景がぼやけたと思ったら浮遊感がして、気がついたら記録させていたキアナ郊外のダンジョンの中だった。肩にのっていたクズハも何の問題もなく一緒に移動できている」


 カイの話を聞いていたコロア。


「今の話はこの石を作った知り合いに言っておくよ。実際使った人の感想ってのは大事だからね。しばらくはキアナかい?」


「ああ。身体を休める。それからローデシアにう向かう予定だ」


「キアナにいる時はいつでもおいでよ」


 店を出ていくカイの背中を見ながら


(カイの雰囲気がまた違っている。行く前より一段と強くなってるね)


 コロアの店を出たカイは最後にキアナのギルドに向かう。まだ昼頃なのでギルドの中は閑散としていた。受付にいたスーザンがギルドに入ってきたカイを見ると立ち上がって、


「おかえりなさい」


「ただいま。しばらくこの街で休養してからローデシアに出向く予定だ」


「わかりました。今マスターはいないので私から伝えておきます」


 そうして宿に戻るとその日はどこにも行かずに休んで疲れを取った。


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