第79話 再びハスリアへ


 外は日が西に傾きかけていて、ダンジョンの入り口にいた職員にクリアの報告をすると一旦宿に戻り、翌朝の夜明け前に宿を出てオースティン に向かった。


 夕方にオースティン に戻るとカイが3つ目の未クリアのダンジョンをクリアしたことは既に報告が来ていて、ギルドにいた冒険者達が中に入ってきたカイを見ては


「またクリアしたんだな」


「あっという間に未クリアを全部クリアしちまったよかよ、半端ないな」


 次々と声をかけてくる中、受付嬢に案内されて奥のギルマスの部屋に入っていった。


 ギルマスのウィニーが部屋に入ってきたカイを見て机から立つと応接のソファにやってきて


「クリアの報告は来ている。戦利品の中に刀はあったのかい?」


「いや、無かったよ」


「そうか」


 そう言う彼の前に戦利品の魔石と斧を置く。指輪はエルフの店で鑑定をしてもらおうと思っているカイはアイテムボックスから出さなかった。


 職員が魔石と斧を持って部屋から出ていくと、ダンジョンの報告をするカイ。


「なるほど。イフリートか。炎の化け物もカイの手にかかれば強敵とはならないんだな」


「火か殴るだけだ。動きを見極めればやっかいな敵じゃないしな」


 あっさりと言うカイ。ウィニーもカイの強さは知っているのでそれ以上何も言わず、


「ところでオースティンの高難易度と言われているダンジョンはこれで全てクリアして、残念ながらカイの探している刀は無かった。となると次はローデシアに出向くのか?」


 ギルマスの言葉に頷くと、


「そうなる。ただ一度ハスリアのキアナに戻ってからになるな」


「なるほど。カイがこの街に来てくれたおかげでこの街所属の冒険者達のモチベーションも上がった。礼を言う」


「こっちは刀を探しに来ているだけだ。そこまで感謝される筋合いのものでもないよ」


 その後ギルマスと雑談をしてソファから立ち上がると握手をし、


「いつでもオースティン に来てくれ。冒険者ギルドはカイを待ってるからな」


「わかった」


 職員から魔石と武器の代金を受け取り、受付のある場所に戻ると、ブルらのランクAのパーティがいた。彼らを見つけてそのテーブルに近づくと椅子を持ってきてくれて勧められるままにそこに腰掛ける。


「その様子だとカイの狙っていた刀は出なかった様だな」


「ああ。残念ながらこの街じゃなかった様だ」


 カイの言葉で周囲がどう声をかけていいのか分からず、気まずい雰囲気になりかけたが、


「そう簡単に見つかるとは思ってないからそれほど落ち込んではいない。この街でいろんな冒険者と知り合いになったし、俺も一段強くなった気がする。得たものは多かったよ」


 その言葉で場の雰囲気が和み、そのままクリアしたダンジョンの話しになった。これもいつもの事だ。


 ダンジョンの階層の攻略からボス戦の話を質問に答えながら話していくカイ。


「イフリートがボスとか凶悪すぎるな」


「それよりも途中の火山の中のフロアがいやらしいぜ」


 思い思いに話をする冒険者達。

「あとは未クリアダンジョンがあるのはローデシアだけになったが」


 ブルが話しかけてきた。


「ローデシアには行くが、一旦キアナに戻って休んでから行くつもりだ」


 カイが予定を言うと、同じパーティの戦士のスリムが、


「ローデシアも基本ここやキアナと同じだ。シノビを見るのが初めての奴が多いだろうがカイなら大丈夫だろう」


 絡んでくる奴がいるがカイならぶちのめせるだろうと言っている。スリムの言葉に周囲も頷いているが、


「用があるのはダンジョンだからな、別に喧嘩売りに行くわけじゃない」


「そうは言ってもよそ者、しかもシノビってなると絡んでくる奴はいるぜ。相手の実力もわからずに絡む馬鹿はどこにでもいる」


「そん時はしっかり後悔させてやるさ」


 カイのその言葉につい最近鍛錬場でぶちのめされた王都から来たという2人組を思い出している冒険者達もいた。


「強い奴ほどカイには手を出さない。お前さんの雰囲気が半端ないってわかるからな。だから絡んでくる奴は大抵ちょっとランクが上がったBクラスの奴らだ」


 ブルがそう言うと同じパーティの仲間達もそうだなと頷き、その後はカイがキアナに戻ると言うので酒場で飲み会となった。


 クズハはカイの肩の上や腹の上を移動してはゴロゴロしてそれが女性冒険者には可愛いと映るらしく酒場の人気者になっている。


 クズハの好きにさせながらカイはブルやリチャードと酒を飲みながら話をしていた。


「あの模擬戦ができなくなるってのはちょっと残念だけどな」


「もう随分と強くそして固くなってる。リチャードなら問題ないさ」


 リチャードがビールのおかわりを頼むとカイを見て、


「世話になったよ。あの模擬戦がなければ俺は伸びて無かった」


 そう言うとブルも隣から、


「カイの木刀を受け出してから盾がずっと安定してな、おかげで俺達の攻略も随分と楽になったよ」


「そりゃよかった」


 ブルも大きなジョッキに並々とつがれているビールをグイグイと飲んでいく。総じて男性の冒険者は酒好きが多い。明日死ぬかもしれないとなると今この時を楽しもうという気になるものだ。


 カイは相変わらず薄めの果実酒をちびちびと飲んでいるが周りもカイについては何も言わない。女性の冒険者の中には酒ではなく、ジュースを飲んでいる者もいる。要は各自が自分で楽しめばいい、他人はそこには関与しないという思想が冒険者の中には脈々と流れている。


 カイもオースティン最後の夜ということで解散まで皆に付き合い、夜遅くに送別会は終わった。


 翌朝、カイはエルフのミーシャの店に顔を出した。そして今日キアナに帰ることを伝え、ダンジョンボスから出た指輪の鑑定を依頼する。


 テーブルの上に置いた指輪を手に取ってじっと見ていたミーシャ、顔をあげると


「これは炎の指輪だね。火の魔法の威力が強くなる指輪だ」


「なるほど。じゃあ知り合いの魔道士にプレゼントするか」


 指輪をポケットに収納すると、ミーシャに頭を下げて


「色々と世話になった、ありがとう」


「ふん、大した世話をした覚えはないけどね」


 満更でもない顔で言い、続けて


「あとはローデシアか。出るといいね」


「そうだな」


「またこっちに来たら顔を出しておくれよ」


 わかった。世話になったともう一度礼を言ってミーシャの店を出て城門に向かうとそこには知り合いの冒険者達がカイを待っていた。カイが近づくとブルを先頭に皆寄ってきて、


「またオースティンに来てくれるんだろう?待ってるぜ」


「ああ。みんなもキアナにも来てくれよな」


「クズハもまた遊びにこいよな」


 ブルが言うとわかったとばかりに大きく尻尾を振って応えるクズハ。


 そうそうとカイはアイテムボックスから炎の指輪を取り出して魔道士のケイトに、


「これはダンジョンボスから出た指輪だ。炎の指輪と言って炎の精霊魔法の威力が増えるらしい。よかったら使ってくれよ」


「ほんと?ありがとう」


 大喜びしてえるケイトを見たブルはその顔をカイに向けると、


「カイ、お前の探してる刀が見つかるのを俺達は祈ってる。体に気をつけて頑張れよ」


「そっちもな」


 そうして見送りに来てくれた冒険者全員と握手をすると、肩にクズハをのせたいつもの格好で軽く手を上げ


「世話になった。楽しかったよ」


 そう言ってオースティン の街を出てハスリアとの国境に向かった。

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